191 / 856
第191話◇
「優月、お茶」
「あ、ありがとう」
玲央に麦茶を渡される。
「飲みながら、も少しだけさっきのとこで待ってて」
「うん」
自然によしよしと頭を撫でながら言われて、さっきまで座ってたソファに向かって歩き始める。
「……玲央が、ゲロ甘すぎる。いくら優月が可愛くても、玲央がキモすぎる」
「は?るせーよ勇紀」
「まあ確かに、目を疑うよなー……」
「お前もうるさい、颯也」
「幻なんじゃねーか?全部」
「甲斐…」
「えー3人で同じ幻見てんの? オレら。やばくねー?」
勇紀がケタケタ笑い出す。
後ろでコントみたいなやり取りと、玲央のため息が聞こえる。
何だか面白いなーと思いながら、特に何も言わず、ソファに座ると。
少しして、話し合ってた皆が各ポジションについて、玲央がマイクの所に立って、オレを呼んだ。
「優月」
よく通る、声。
声、ほんとイイ。呼ばれるだけで、嬉しい位。
「ん?」
玲央をまっすぐ見つめると。
「少しだけ演奏する。この曲だから、出だし覚えて」
「――――……」
頷くと、一度音が消えて静かになる。
「――――……」
今まで聞いてた歌と少し違う。
キーボードから始まる静かな曲。それに少しずつ音が重なっていく。
ああなんか、人気があるの、ここだけでも分かるかも。
この曲、すごく綺麗。
少しだけ、演奏されたその曲は、玲央の合図で止まってしまった。
「これ、な? 覚えといて」
玲央の言葉に、頷いて、笑んだ。
……玲央の歌の部分まで、聞きたかったなー……。
なんて思いながら、再開した別の曲の練習を見つめる。
……ほんと。カッコいいなー、玲央たち。
さっきも思ったけど、何時間でも見てられそう……。
あ。オレってもしかして……。
いや、もしかしなくても、すごく贅沢なのでは。練習見れるなんて。
音楽を聴くのは好きだけど、他のバンドのライブとか見た事も無くて、玲央達のバンドの事も知らなかったオレみたいな奴がここでぼけっと聞いてるとか。いいのかな。
ファンの人からしたらありえないのかも……。
今更に気づいた事に、なんだか練習を見てる背筋がちょっと伸びてしまう。
――――……どまんなかの人が。
信じられない位、カッコいいからなあ……。
…………あの人と、キスしたり。抱き合ったり。
――――……やっぱり……何でだろ?
オレ、良く、そんな事してるなあ……? 冷静に考えると、信じられない。
何で、とか思わないようにとか思うのだけれど。
カッコイイなと思う度、やっぱりどうしても、巻き起こる想い。
これは……。
オレが、そこを気にしなくなるとか。当分先かもしれないなー……。
だって、玲央って、カッコ良すぎるんだもん。
ちょっとじゃないもんね。
格別にカッコいい。
声も、カッコいいし。
なんなら後ろ姿だけでもカッコいいし。
見た目は、勿論なんだけど。
玲央って、何してても、ほんとカッコいい。
動作が綺麗、というのか。
派手だからか、「チャラい」とかいう言葉で表現されてたけど、なんかそんな、チャラチャラした動きは全然しないし。落ち着いてて、綺麗。
玲央のキスも好き。めちゃくちゃ優しくて。熱くて。
触ってくれる手も好き。
手、繫いで歩いてくれるのも。
頭、撫でてくれるのも。
髪、乾かしてくれるのも。
呼んだ時に、優しく、「ん?」て、見つめてくれるのも。
………ダメだ、オレ。
恥ずかしくなってきちゃった……。
何言ってんだろ、オレ……。
なんかふと気づくと、玲央がオレにしてくれる事が、多い気がする。
――――……オレは、玲央に、何かできてるのかなあ……。
どうして居てくれるんだろ……って、オレ、またどうしてって思ってるし。
玲央と会うまで、こんなような事、考えた事も無かったんだけどな…。
オレと一緒に居てくれる人達に対して、どうしてオレと一緒に居てくれるんだろうって。 普通、考えない。
何かしら居心地がいいとか。何かを好きと思ってくれてるか。
そんな感じだろうと、特別形にすることなく、漠然と思ってるだけで、全然、一緒に居られるのに。
好き過ぎるからかな。
でもって、なんか、特殊過ぎる。というか。
なんか。
雲の上の人、みたいなイメージだからかも。
あー。
なんか、王子様?とか。
身分が違う、みたいな感じかなあ。
……って、オレ、ほんとに何言ってるんだろ。
だんだん可笑しくなってきちゃった。
ともだちにシェアしよう!