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第193話◇

「いこっか、居酒屋でいいよね? 電気消すから出てー」  勇紀がドアの所でそう言ってて、オレと玲央の先を颯也と甲斐が歩いて行く。 「玲央」  玲央の腕にすこしだけ触れて、玲央を呼んだ。 「ん?」と、見下ろしてくる、視線。 「オレ、なんないよ、嫌になんて」  さっき言われてから、考えてて。  オレに嫌だって思われたくないって。思ってくれるんだなーと思ったら、やっぱりすごく嬉しい。  玲央のまっすぐな視線を見てると、本当にこの瞳が大好きだし、と思って自然と微笑んだ瞬間。 「――――……」  優しく笑まれて。ちゅ、とキスされた。 「はー?! もー、はいそこー、外ではすんなよー」  キスされた瞬間、勇紀の声がして、甲斐と颯也が振り返る。  たぶん真っ赤になってるオレと、「邪魔すんな」と言ってる玲央を見て、何があったか悟ってしまったらしくて。 「……ほんと、あいつ、誰??」  甲斐が言って、颯也も、ふ、と笑いながら、また先を歩き始める。 「玲央、やっぱり、外は禁止……っ」  もう一度キスされて。玲央が笑った。 「帰るまでは、これで終わりにするから」 「…………っ……」  よしよし、と撫でられて。  文句も、封じ込められる。  勇紀が、オレと玲央が出ると電気を消してくれて、ドアを閉めてくれた。 「何なの? マジで我慢できないの、玲央」  並んで歩き出しながら、勇紀が玲央に呆れたようにそう言ってる。 「大変だねー、優月、こんな人の相手……」  そんな風に言われて、ますます恥ずかしい。 「いんだよ。お前らしか居なかったじゃん」 「ちょっとはオレらにも気を遣えよ」 「今更だろーが」 「いや、今更だけど……つか、優月、真っ赤だったし」  勇紀がクスクスに笑う。 「優月がすげー可愛いこと言うからだし」  え。オレ。……のせい?  びっくりして玲央を見上げてしまう。 「ふーん? 何言ったの、優月?」  ……何言ったっけ。  キスされる前……。  あ。 「……? 嫌になんてなんないよって言ったこと……?」  そう言ったら、勇紀がじっとオレを見て。  それから、ぷ、と笑いながら玲央に視線を向けた。 「すっげー意外」 「何がだよ」 「玲央って、そーいうのを可愛いって思う奴なんだね」 「……」 「うんうん、分かる分かるー、オレも、優月の事ずっと可愛いと思ってたから。はは、可愛いよねー」  詰まった玲央に畳みかけるように、勇紀が楽しそうに言う。  そういえば、勇紀にはたまに、優月可愛いねとか言われてたっけ。全く意味が分からなかったから、全部スルーしてたけど……なんて思いながら、そのやり取りを見ていたら。  玲央がオレの腕を掴んだ。 「…やっぱ帰ろっか、優月」 「え」  驚いてるオレの手を勇紀が、ぱっと奪い返した。 「ダメ、行くって決めたもんな、優月?」 「あ、う、うん」  玲央が、はーとため息をつきながら、しょうがなさそうに歩いてくる。 「良いの? 行って」  勇紀に連れていかれてしまいそうなので、玲央を振り返ってそう聞くと。  玲央は苦笑い。 「いーよ」 「いーのいーの、玲央に聞かなくて。行こ、優月、どんなお店が良い? オレらいつも行く居酒屋が何こかあってさ。中華風とか洋風とか鳥メインとか…」  楽しそうに店の説明をする勇紀の話を聞きながら、振り返ると、玲央は後ろの方で、颯也と甲斐と歩きながらついてくる。 「いーんだよ、優月。玲央は嫌だったらそー言うからさ。ついてきてんだから、気にしなくて大丈夫」  勇紀がクスクス笑う。 「そっか」  ちょっと安心して笑うと、勇紀もうん、とにっこり笑った。 「それに、優月が言うこと、逆らえないんじゃない? 玲央」 「――――……」  なんか言われた事にビックリしすぎると、止まるんだな、人って。  と、思った。それくらい、固まってしまった。  ……逆らえない。  ……?? 玲央が、オレに??  すごい固まったオレに、勇紀は、あれ?という顔をした。 「そんな事ない?」 「逆らえないとか、そんな事絶対無いと思うけど……」  むしろ、オレのが、逆らえない。  逆らえないというか、好き過ぎて、言うがままになれちゃう気がする。 「今度なんか我儘言ってみなよ。絶対なんでも聞いてくれると思うよ」  ぷぷぷぷぷ、と、楽しそうな勇紀に、何だか可笑しくなってしまう。

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