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第194話◇

【side*玲央】  ……なんか、優月。  めちゃくちゃ可愛がられてる気がする……。  優月の希望で、和食メインの居酒屋に来た。  六人掛けのテーブルに通され、優月を奥に入れてしまおうとしたら、勇紀に止められた。 「優月、初参加なんだから、真ん中に決まってるし」  そう言った勇紀に、優月は、 「え、オレ端っこで……」  と言っていたが。  勇紀が、ダメダメと言いながら、あくまで真ん中に座らせようとしている。  いいのかな?と聞いてくる優月にオレが頷くと、颯也と甲斐も、座んなとか言いながら、優月がそのまま真ん中に座る事を促していた。  と言う事で、五人でどう座ったかと言うと。  通路側から、勇紀、優月、オレ。オレの真正面に甲斐、隣に颯也。  これで座る事になった。  優月は最初はど真ん中でどうしようかなと、少し居心地悪そうに座っていたが、普通に皆と話し出すと、楽しそうに笑い出した。  一時間位経過して、今はもう、いつも通りの優月。 「優月、これ美味しいから食べてみて」 「何?これ」 「盛り合わせんなってたから良く分かんないけど……何かの刺身」 「何それ」  クスクス優月が笑って、勇紀の前の刺身を口にする。 「うん。美味しい。――――……けど何か、分かんないね」 「だろ」  あはは、と笑いあってる二人。  ……こいつらほんと、仲いいな。 「玲央も食べてみて?」  皿をもって、優月が楽しそうに振り返る。  これ、優月と二人きりだったら、食べさせてっていう所だけど。  ――――……んな事言ったら、確実に、餌食だ。我慢。  箸を持って、その刺身を口にする。 「玲央、何か分かる??」  期待してる瞳だけれど。 「さあ。全然わかんね」  言うと、優月が、くすっと笑った。 「美味しいからいっか」  あは、と優月が楽しそうに笑う。 「颯也も甲斐も、食べる?」  そんな風に言って、目の前の二人にも差し出してる。  最初は、颯也と甲斐の名前を呼びにくそうにしてたけど、「ちゃんと呼べよ」と二人に言われて、何回も呼ばされてる間に、すっかり慣れたらしい。  ――――……何か、優月が居るだけで、いつもの四人の空間と、全然違う。  まず勇紀がいつも以上に、はしゃいでるし。  颯也の、たまにひどく冷める口調も、なぜか優月に対しては出ない。  ……まあ、冷めた口調でつっこむような事を、優月が言わないからかもしれないけれど。  甲斐は基本ニヤニヤしながら優月を見てるし。  で、たまにオレに視線を向けて、面白そうにしてる。  ものすごく、何か言いたげなので、完全に無視を続行中。 「明日優月来るんだろ? 一番前とか来させんの?」  颯也がオレにそう聞いてくるのを聞いて。 「遅れて行くから、後ろから見ると思う」  と、優月が答える。 「遅れるのか?」 「うん。絵の先生の個展の受付のお仕事があって。お願いして、少し早く帰してもらえる事にはなったんだけど……」  ね、と優月がオレに視線を投げてくる。  あ、その話で思い出した。 「なあ、勇紀」 「んー?」  勇紀が、優月の後ろからこっちに顔を向けてくる。 「優月のチケットにサイン書いとくから、受付の奴に伝えといて?」 「OK。今回オレの知ってる子だから、頼んどく。優月入ったら、入り口のライトを一度光らせてもらおっか」 「ああ」  オレと勇紀の会話に挟まれて、優月がオレを見てる。 「お前来たら、こっちから確認できるようにしてもらうだけ」 「――――……」  良く分からないのか、ただ、うん、と頷いてる。 「なあなあ、そろそろ聞かせて、優月」 「ん?」  甲斐が少し乗り出してくる。 「うん、なに?」  あー、何か。  嫌な予感しか、しない。 「玲央のどこがいーの?」  皆それぞれ、ぴた、と止まる。  颯也はため息をつきながら甲斐を見てるし。  勇紀は、あー…と、優月を見てるし。  オレは、甲斐をじろ、と睨んで。  で、優月はと言うと。 「え」  と言ったきり。かあっと赤くなって固まった。 「あ、と…… どこ、が……」  優月は、パッとオレを見て、さらに耳まで真っ赤に染まった。 「――――え…………全、部……??」  優月のセリフに、三人が、一斉に、ぷ、と笑い出した。 「全部なの? マジで?」 「いーの? 優月、全部とか言っちゃって、玲央が調子に乗るから」  甲斐と勇紀が騒いで、颯也は、クックッと、珍しく笑いを抑えきれないと言った風に笑ってる。  あー……ダメだな。これ。  さっきからずーっと、隣で触りたいの我慢してたんだけど。  ……無理。 「え?――――……ン……っ」  オレに肩を抱かれた優月は瞳を見開いたまま、オレの腕の中に引き込まれて。キスされた瞬間、ぎゅ、と目をつむった。  退こうとするけど、逃がさず。  ほんの数秒、深くキスして。ぱ、と唇を離す。 「……っ……れ……」  もはや、オレの名も呼べないらしい。  見開かれた瞳に、ぷ、と笑いながら。 「何で、こんなかわいーかな?」  優月をよしよし、と撫でながら、思わず3人に向けて、そう言った瞬間。  優月がもう火が付いたみたいにさらに真っ赤になって。  三人が信じられないといった顔で、オレを見た。 「マジでやばいな、玲央……」 「ヤバいしか言えない」 「……あーあ、優月真っ赤……」  颯也と甲斐と勇紀が顔を寄せて、ブツブツ言ってる。 「つーか、ずっと我慢してンのに、お前が全部とか言うから……」  ぶに、と赤い頬を摘まんでそう言うと。  オレのせい……??という顔で優月が見つめてくる。

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