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第195話◇

「もー、離してあげなよ、真っ赤じゃん優月」  勇紀が優月の手を取って、少し引いた。  ……ち、連れていかれた。 「優月、大丈夫。オレら、玲央のキスシーンなんて見慣れてるから驚かないし」  甲斐がそんな風に言って、真っ赤な優月を慰めているが。 「……つか、その話、要らねーから」  別の奴とのキス、見慣れてるとか、優月に言うな。  そう思って甲斐をちらっと睨むと。  甲斐は、ぷ、とまた笑い出した。 「気にすんの?それ。 優月に聞かれたくないの?」 「そりゃそうでしょ、ていうか、優月だって聞きたくないよね?」  勇紀がオレの代わりにそう言って、優月に、ね?と聞いてる。  優月は、少し黙ってから。 「……何となく、分かるから、大丈夫だよ」  そう言った。  ………また、出た。  こういう話になると、いつも、知ってるから大丈夫と優月は言う。  オレは、何となく、優月がそう言いそうだと思っていたのだけれど。  3人は当然、ん?という顔で優月を見た。 「大丈夫ってどういう意味?」 「……ん?」  3人の表情に、優月までがきょとんとして。  全員きょとん、としてる。  颯也と甲斐のそんな顔は珍しくて、こんな話でなければ笑ってしまいたいところだが。オレは、はあ、とため息をついた。 「……ちょっとは気にしろよ」  優月の頭を撫でながらそう言うと。また優月が不思議そうで。  ダメだ、分かってねえなと思った瞬間。  勇紀がさすが聡くて、すごい顔でこっちを見た。 「……え、ちょっと待って、今の玲央の、気にしろって何? ヤキモチ妬けって言ったって事?」 「優月、いつも平気って言うから……ムカつくんだよな……」 「はーーーー???」  あー。勇紀、うるさい。  颯也と甲斐は、口開く前から、その視線がうるさい……。 「何、ヤキモチ妬いてほしいの??! やばいよ、どーする?」 「玲央がヤバいのはもう今週ずっとだから。オレはそっちより、優月の大丈夫の方が気になるけど。 玲央のキスとか、気になんねーの?」  颯也が優月をじっと見て聞いた。  つーか、颯也、オレが今週ずっとおかしいって何だ。そう思いながらも。  優月が困ったように話し始めるので、何も言わず、聞く事にした。 「……玲央にそういう人達が居るの知ってるし……玲央、いつもキスするから、今までも色々あるだろうなーと思うし……」 「だから、大丈夫っていうのか?」  颯也が首を傾げてる。 「何それ。気にしなよ。ていうか、玲央は気にしてほしそうだよ」  クスクス笑って勇紀が言う。 「あと、オレ、玲央からキスすんのはあんま見た事ないけど。なあ??」  勇紀の言葉に、甲斐が頷く。 「大体されてたよな。まあ玲央も拒んでもねーけど」 「玲央の相手は積極的だからな……」  颯也もため息をつきながら言ってる。  苦笑いの勇紀が、優月の肩をポンポンと、抱いてる。 「玲央があんな風に可愛いとか言ったり、キスしたりとか、見た事無いからね。大丈夫だよ、優月。優月の事、玲央は特別だから」  勇紀に肩をポンポンされながら、優月がオレを振り返って、じっと見つめてくる。 「なあ、今マジで、ヤキモチ妬いてくれないからムカつくって言ったの?お前」  優月の視線に向いていたいのに、真正面の甲斐が、乗り出して、オレを無理無理見つめてくる。 「……大丈夫、気にしないばっかり言われると、余計気になるって話」  仕方なくそう言うと、3人はふー、とため息。 「……難しすぎ、玲央」 「付き合ってらんねえよな、言いすぎれば重いって言うしなあ?」 「こんなの面倒じゃないの? 優月」  勇紀、甲斐、颯也。  好きに言った後、優月を見つめてる。  優月は、少し黙っていたけれど。  また、くる、と、オレを振り返った。  まっすぐな瞳でじっと見つめて。 「玲央がモテるのは、すごく分かるし……キスした人の気持ちも分かるし……って、思ったんだけど……」  その後、ちょっと困った顔をして。3人を振り返った。 「……玲央が今言ってるのって、ヤキモチ妬いてほしいて事なの???」 「おっとー……?」 「マジか……」  勇紀と甲斐が、コントみたいに斜めになってる。颯也はめちゃくちゃ苦笑いだし。   「分かるでしょ? それ以外の理由で、何で玲央が気にしろって言うと思うの?」 「え、だって。そういうの、玲央は嫌いって……」 「だから、優月には言って欲しいんじゃないの? つーか……ははっ。面白いなー、優月……」  勇紀が優月越しに視線を向ける。 「玲央は、こんな感じが可愛いんだろ?」  可笑しそうに笑いながら、優月の頭を撫でながら言うので。 「……つーか、あんま触んな」  優月の二の腕を後ろから掴んで、オレの方に引き寄せた。 「うっわ、玲央のヤキモチとか……キモ過ぎ!」  至近距離に引き寄せられた優月は、すぐ真下からオレを見上げて。  また少し赤くなってる顔で、ふ、と笑った。 「――――……玲央……」  特に何も言わず。  名前を呼んで、ただ、笑うだけ。  ――――……なんか、脱力する。  ……可愛くて。 「見つめあうな―。優月は可愛いけど、玲央、マジで誰?て感じ」 「……オレお前と、幼稚園から一緒なんだけどなー……。お前ってこんな奴だっけ…?」  マジメな顔で甲斐が言って、それからものすごい苦笑い。 「お前にこんな事聞く日が来ると思わなかったけど……優月の何が気に入ったの、お前」 「――――……何が?」  甲斐の質問に、しばらく止まる。  何が、か。  なんだろう。  優月の……。  笑ったとこと、話し方と、見つめてくる瞳と、無邪気なとこ、話す言葉、エロイとこ、純粋なとこ……。 「んー……ぜん」 「全部とか言うなよ」  甲斐に止められた。  ――――……ちっ。読まれた。  ぷ、と笑う3人と、全部って言おうとしたの?と不思議そうな優月。 「今、優月の真似して全部とか言おうとしたけど。優月どう思う?」 「え……っと……」  勇希の言葉に戸惑ってる優月に。  甲斐と颯也が続ける。 「つか、今の玲央を動画にして、玲央の相手に送ればいーんじゃねえ? 諦めるだろ、きっと」 「諦めるっつか、呆れるかも」  ……とことん弄られてる感じがして、ものすごく嫌なのだけれど。  ――――……なんか、優月が楽しそうなので。まあ良しとするか。  普段、優月と過ごす時は、ほとんど2人きりで。ひたすら可愛がって、触って過ごしてるから、今も気付くとついつい、手が伸びそうになる。  早く帰って、抱き締めたいとずっと思うのだけれど。  オレがずっと一緒に居る奴らと、優月が、なんか仲良くしてンのも。  ――――……ちょっと、面白い、かも。

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