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第196話◇
【side*優月】
そろそろ帰ろうか、となった時。
玲央が、トイレに行ってくると言って、立ち上がった。
「……余計な事言うなよ」
立ち去る直前、ちら、と3人を振り返って言って、玲央は消えていった。
3人はぷ、と苦笑い。
「仲良しだね」
何だか、すごくほんわかした気分で、オレがそう言うと。
「まあ長いからね。幼稚園からずーっと玲央と仲良いのは甲斐かな」
「あ、そうなんだ」
「同じクラスになる回数がやたら多かった」
甲斐が笑う。あ、なるほど、と笑ってると。
勇紀が、急にじーっとオレを見つめてきた。
「ん?」
「……オレさあ、まさか、優月と玲央がそーなるとは思わなかったから、実はほんとにびっくりしてるんだけどさ」
「そーなるって?」
「ん? そうなる……えーと、付き合う?」
「んー……付き合って……は、ないかな」
「ああ、そっか、まだか……。まあその内そうなると思うけど」
クスクス笑う勇紀。
「オレら玲央の事、超からかってるけどさ。……実は、嬉しいんだよねー」
「嬉しい?」
「うん、嬉しい。――――……優月を可愛がってる玲央がさ。今までに無く、楽しそうだから」
「……そう、なの?」
……確かに、オレの前に居る玲央は、いつも楽しそうに笑ってる、ような気はするけど。……今迄も、そうだったんじゃない、のかな。
「あいつ、セフレと居る時、そんなんじゃないよな?」
勇紀のそんな言葉に、颯也が応えて、続ける。
「無い。むしろ、無表情だよな。別にそこまで冷たくしてる訳じゃないけど、あんまり深入りしないようにしてたし」
「なあ、優月。 玲央、色々あってさ。恋人いらねーって言ってたんだけど、それは知ってる?」
勇紀の言葉に、思い当たる事があるので、頷いた。
「……うん。最初、本気になったら終わりって言ってたし。恋人作んないようにしてたって、言ってたし」
「何でか知ってる?知りたい?」
「……今は、いいや。いつか、玲央に、聞いてみる……聞けたらだけど」
そう言ったら、3人は、ふ、と笑った。
「そだな。うん、自分で聞いてみな」
勇紀の言葉に頷いていると、颯也がクスクス笑い出した。
「お前に会った日に、玲央が、面白いの見つけたって言ったんだよな。で、その次は、そいつが可愛くて、とか。セフレになりたいって言われたって、嫌がっててさ……」
「――――……面白いのって、オレ??」
「うん、お前」
颯也の返事に、面白いってなんだろうと首を傾げていると。
はは、と笑って。勇紀が続ける。
「そうなの。優月の事可愛いとかさ、優月とセフレはやだとかさ、何気なく漏らしちゃって素直なんだもん。オレ、玲央を可愛いと思ったの、ちょっとマジで初めてだからさ」
おかしそうに笑いながら、勇紀はオレを見つめてくる。
「優月と居る玲央は、なんか楽しそうでいいなーと思うよ」
「……ほんと?」
3人に視線を流すと。
皆、クスクス笑って頷く。
そんな風に言われて――――……。
何か、すごく、嬉しくて。 それから――――……。
「だから、玲央の事よろしくね」
勇紀がそう言った瞬間。
「……なんだ、よろしくって」
「おお。玲央、おかえりー」
「……お前ら、優月に何言って……」
「お、遅かったね、玲央。トイレ混んでたの??」
無理無理話題を変える勇紀に、玲央がため息をついてる。
「トイレ個室しか無ぇだろ、ここ。埋まってたンだよ。……もう出ようぜ」
「オッケー」
皆、立ち上がる。勇紀が先に席を出て、オレも、続いて立ち上がった。
「優月?」
「……うん?」
「どした?」
「――――……」
ふ、と、優しい瞳と見つめ合う。
――――……どうもしない。
ただ、オレと居る玲央が楽しそうだって、皆が言ってくれて。
すごくすごく、嬉しくて。
それから――――……。
なんか。
オレと居ると。
……玲央が、楽しくなってくれるなら。
オレが玲央の側に、居る意味が、あるのかなって、思えて。
――――……嬉しすぎて、泣きそうになってるだけで。
何も言わなかったのに、顔もあんまり見せてないのに、
玲央が、何となく気付いてくれて、どした?と聞いてくれたのもまた、泣きそうな気持に拍車をかけた、だけで。
「……優月?」
「あとで、話す。……嬉しかった、だけ」
「――――……」
少し俯いたら、玲央はいつもみたいに顔を上げさせようとはしなかった。
くしゃくしゃと、髪を撫でてくれた。
そのまま、手首を引いて歩いてくれる。
それだけで、ドキドキしてしまって、
その間に、泣きそうだった気持ちは収まった。
すう、と息を吸って。顔を上げて。
もう大丈夫、と玲央に伝えたら、
玲央はふ、と優しく笑んで、離してくれた。
――――……この人が、好きだな、と。
またまた、すごく、思ってしまった。
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