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第202話◇

【side*玲央】  優月の乗った電車を見送る。  最後に小さく手を振ってた優月の笑顔がなんとなく心に残ったまま、歩き出した。  土曜の10時前。人がやたら多い。  今日歌う曲をイヤホンで流したまま、ライブハウスの近くのカフェに入った。颯也、甲斐、勇紀のトーク画面に店の場所を入れて、コーヒーを頼む。  ライブハウス入りは15時だから、あと5時間弱。間に食事を入れつつ、今日の進行の詰めを、いつも事前にするけれど――――……ちょっと早く着きすぎた。優月の時間に合わせたからな……。  ふと、スマホに大量にメッセージが来てる事に気付く。  今日のライブ頑張れとか、見に行くとか。  友達からもあるし、色んな知り合いもいるけれど、  ……関係を持ったことのある奴も多い。  …………つか、オレ、何人とそーいう関係もってんだ?  「セフレ」って。  別に、セフレ宣言してない奴も居るし。  完全に、セフレだと、関係を言葉にしてくる奴も居るし。  一括りにできない。  どこまで、やめようと伝えるべき……。  上から順に、何となく眺めながら、連絡が必要か、そのまま自然消滅でいいか考えていくけれど――――……。  半々くらいか?  でも、自然消滅にしといて、向こうから連絡が来たら断らなきゃいけないっていのもかったるいから、やっぱり、最初に、全員断り入れるか?  …………適当にやってきたツケとでも言うんだろうか。  ……この上なく、面倒くさい。  もはや全員自然消滅にしたいけれど、結構頻度が高かった奴は普通に連絡してくるだろうし――――……。  ………………あとで 考えよう。  とりあえず、ライブだ。ライブ。  今日は、優月が見に来てくれるから。  誰かに、見てほしいとか。  ……こんなに思うの初だな――――……。  ライブの進行表で、優月が来るあたりの時間の所を眺める。  ここらへんで、1曲入れるとして――――……。  その時、甲斐からのメッセージ。 「駅ついた。すぐ着く」  了解、とだけ入れて、また進行表に目を移す。  ふと優月を思い出す。  無事ついてるかな……。  顔を思い出すだけで、ふと、笑みそうになって、思わず口元を隠した。  ……スーツ、似合ってたな。  何であんなに、そのまま脱がせたい位、エロイなんて思うんだか。  もう少し時間に余裕があったら、触ったのに。  優月はどっちかというと、邪気無くて、色気とか無くて。  あんまりエロイって対象の奴じゃない……と思うんだけど。  ……ああ、でもオレ。初対面で誘ったっけ。  はは。……とんでもねえな。  よく、誘いに乗ったな、優月。  キスも初めてだったのに、オレがする事、全部受け入れて。  オレを好き、とか言って。  まっすぐにまっすぐに、オレを見る。  あの瞳を、ずっと、見てたい。とか。  は。  ほんと、謎……。  …………何してんだろーな、今頃。  ぼんやり優月を思い出していると。 「よ、玲央」  甲斐が近づいてきて、荷物を置いた。 「早かったな、甲斐」 「ああ、楽器とかの搬入頼んできたから……」  甲斐の親戚がレコード会社をやっているから、ほとんどの音楽活動はそこでサポートしてもらっていて、やり取りも全部甲斐がしてくれてる。 「ああ。お疲れ。ありがとな」  イヤホンを外しながそう言うと。 「つか、何言ってンのお前。早かったなって、オレよりお前だよ。早すぎ」 「優月の時間に合わせて出たから」 「――――……昨日は早く寝かせてあげた?」  ニヤニヤしながらそう言って、甲斐はオレの前に座った。 「……ああ。すげー我慢した」  ぷ、と甲斐が笑う。 「……なんか昨日さ、初めて優月と玲央が居るとこ、長く見たけど」 「ああ」 「……優月が可愛くてしょーがないんだなって事だけは、すげー分かった」 「――――……」 「でもって、そんなお前、初めて見た」 「――――……オレだって初めてだから、そりゃそーだろうな」  ぷ、と笑ってそう言うと。  甲斐はクスクス笑って。 「あーいう感じが好きだったんだな、お前。……純粋な感じ? やっぱり自分と正反対のもんに惹かれるの?」 「――――……さあ。あーいうのが好き、なのかは、わかんねえ。優月じゃない奴で似たようなのが居ても、好きになるかは分かんねえし」 「……へえ? そーなの?」 「……優月があの顔であの性格で、ああいう喋り方だから……反応とかセリフがすげー可愛いと思うけど……。別の奴がおんなじ事言っても別に可愛くねーかも……」 「……マジで、やっばいな、お前」 「……は?」 「マジで、惚れてんだなー。すげぇおもしれぇ」 「おもしれーって何だよ」  苦笑いしながらそう答える。  甲斐のコーヒーが来て、今日のライブの話をし始めたら、勇紀と颯也からも連絡が来て、しばらくして全員集合。 「おっはよー。てか、玲央、何、ついてるってメッセージが早すぎて、オレ超焦ってきちゃったんだけど!」 「優月に付き合ってきたんだってさ」  勇紀の言葉に甲斐が笑いながら答える。 「玲央が優月と居て、確実に良くなった事があるよな……」  颯也がふ、と笑いながら、そう言うと。 「なになに? 良くなった事って」  勇紀がオレのかわりに、颯也に先を促してる。 「――――朝がすげえ早くなった」  颯也の言葉に、甲斐も勇紀も、ぷ、と笑った。  まあ。ものすごく自覚してるから、反論はしないけど。

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