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第206話◇

 めちゃくちゃ急いで辿り着いたのに、目の前の建物に一瞬、立ち止まる。 「――――……?」  ライブハウスとか言うから、地下とかの狭い、暗めの店を思い浮かべてた。100人とか200人とか位の、目が届く位のステージを、想像してた。  メジャーデビューはしてないって言ってたし、そしたら規模はそんなに大きくないんだと、勝手に思ってたから、全然詳しく聞かなかった。  …………ん? ここ??  4階建て位に見える、めちゃくちゃオシャレな、大きな建物。ライブハウスっていうよりも、普通に大きなコンサートとかやりそうな。  チケットに記載されてる場所の名前と、建物に書いてある名前は合ってる。  でっか……。  ん? ライブって、何人位なの??  オレ、ほんとに何も聞いてないな。  服装も、今日の仕事の途中ではっと気づいて、「スーツでいいのかな?」と蒼くんに聞いたら、「この時間のライブなんて、仕事帰りの奴も来るだろうし、ジャケット脱げば平気だろ。皆ステージしか見てねえし」と言われた。多分玲央もそれだから言わなかったんだと思うけど。  もっとちゃんと色々聞いとけばよかったけど……。何も疑問にも思わなかったから、そもそも聞ける感じじゃなかったというか。  ここで良いのかなと、ドキドキしながら、建物の中に入り、受付にチケットを差し出してみる。  すると、その女の子がぱっと笑顔になった。 「玲央さんのお客さまですね!」 「あ。……はい」 「お待ちしてました! いらした事、伝えないと――――…… 私、一緒に行きますね」  受付から出てきた彼女の後をついて歩き出す。目の前に、大きな扉が見えて、そこから入るのかと思ったら、彼女は脇の階段を上がっていく。 「下はスタンディングの……立ち見の客席なんですけど、お客様はこちらに案内することになってて……階段気を付けてくださいね」 「あの……今日って、何人位のライブなんですか?」 「スタンディングで700人で、上の指定席で200人位だったと思います」  ……なんか思ってたのと全然違うのかも。 「こちらです」  重そうなドアが開いた瞬間。  中から、音楽が溢れ出てきた。  あ。  この曲、聞き覚えがある。  ――――……玲央の声だ。  急激に、ものすごく、ドキドキしながら、彼女の後をついて、言われるままに、席に進んだ。  2階のバルコニーのようになってる場所の、一番右前、ステージがすごくよく見える席。座った瞬間、玲央と皆が見えた。  ――――……わー。玲央だ……。  皆、黒い衣装で統一してるみたい。  玲央、銀色のアクセサリーがめっちゃついてる。  カッコいい。  ステージが眩しくて。  想像してたよりももっともっと、玲央達は、キラキラして見えた。  なんだか、何も考えられない。  鼓動が痛い位で。  彼女が、座ったオレの横で、隣に置いてあった、ライトのスイッチを一瞬、入れて、すぐに消した。 「……あ。玲央さん、気づきましたよ。私、戻りますね。ごゆっくり」  そう言われて頷いて、すぐにステージの方を見ると。  玲央は歌いながら、こっちに視線を向けてて。  離れてはいるけれど、確かに視線が合ったと思う瞬間、すごく嬉しそうに、笑った。  ――――……う、わ……。    玲央の笑顔に気付いた勇紀が、ふっとこっちを見て。  それから玲央に視線を戻して、苦笑してる。  ――――……もうなんか。  ……勘弁して、ほしい。  ドキドキが、半端なさ過ぎて。  胸が痛い。  物理的な痛みさえ感じてきて、思わず、胸の真ん中をぎゅ、と押す。 

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