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第208話◇

 本当にあっという間に、ライブが進んでいって。     「次がラストの曲――――……」  え。――――……もうラスト?  早い……。ずっと聞いてたいのにな。  お客さん皆がそうみたいで、えー、というような声が響く。    「――――……柄じゃねえけど」  玲央が不意にそう言って。静かになった客席を見渡してから、最後に、こっちを見た。 「颯也が作ったこの曲の意味が、最近少し分かった気がしてて」  そう言った玲央に、ステージの上の3人は、ふ、と笑顔になってる。 「ラストは、この曲――――……Love」  曲名を言った瞬間、ざわついた。  ざわつく意味が分からない。  曲を知らないと、ダメだね。  ――――……今度は、もう、全曲覚えてから、参加しよ。  好きな人が出来て、世界が変わった、という歌だった。  愛してる、という気持ちを素直に歌う曲、だった。  玲央がその意味を分かるとか言ったから、あんなにざわついたのかと思ったら、何だか少しおかしいけど。  ――――……最近、少し、分かったって。  …………玲央が言ったのって――――……それって。  その先を言葉にするのは、何だか少し、図々しいような気がして。  ただ玲央を見つめていたら。  玲央が、ふ、とオレを見て、瞳を緩めた。 「なんか玲央、今日めっちゃこっちも見てくれるよね」 「ほんとー!」  少し離れた席の女の子達がそんな風に言ってる。  んーと……? そんなのを聞いてる心配になってくる。  玲央って。――――……オレを見て、くれてるんだよね?  ていうか、ここに居る人達、皆、目が合ったとかできっと、すごく喜んでたりするんだろうな。  実はオレを見てない……?とかだと、ちょっと、悲しいけど。  そんなこと、無いよね……? とか。  ちょっと心配になってしまったりするのは。  あまりにキラキラしすぎだから。  ――――……やっぱりなんだか、玲央とオレがって事が、不思議に思ってしまうから。  上手い下手とかは、他を知らないから、正直分かんないけど。って、オレにとったら、神様レベルで上手だけど。  ただ、熱気のすごさは、体感として分かった。これ以上ないくらいの、客席の熱気。これが人気の証なら、玲央たちのバンドは、本当にすごいんだと思う。  最後の曲が終わって。一回、全員袖に引っ込んだのだけれど。  すごく盛り上がったままアンコールになって。  熱気に包まれたまま、ライブが、終わった。  ステージから玲央たちが居なくなって。歓声が次第に止んで。    ライブ終了を告げるアナウンスが流れると、皆、自然と出口へと向かい始める。ぼー、とステージを見ていたけれど、あ、そろそろ出ないと、と立ち上がりかけた時。ここまで案内してくれた女の子が駆け寄ってきて、そのままここで待っててくださいと、言った。 「――――……」  良く分からないまま頷いて、また座っていると、もう誰も居なくなってしまって。さっきまでが信じられない位、静か。立ち上がって、手すりにもたれて、下のステージを覗き込む。  ついさっきまで、玲央があそこで――――……。  ひたすら余韻に浸りまくっていたら。  とんとん、と、足音がして。 「優月」  呼ばれたと同時に、腕を引かれて、抱き締められた。  目の前にきた服は、ステージで着てた衣装とは違う。 「玲央……」  腕の中から、玲央を見上げると。  玲央はふ、と笑って。顔を傾けて、近づいてきた。 「――――……」  触れるだけの、キスをされる。 「玲央――――……カッコよくて、死にそうだった」 「は? 死にそう?」  クスクス笑って、玲央が頬に触れる。 「すっごい、良かった。ほんとに、ありがと」 「――――……ん」  ふ、と笑んだ玲央に、今度はめちゃくちゃ深くキスされる。 「……ん……っ……」 「――――……すげえ泣いてたろ」  キスを少し離して、玲央が囁く。 「……うん。だって。……良すぎて」  言った唇をまた塞がれる。  舌が絡めとられて、また一気に深くなって。 「っれ、お……」  また立てなくなりそうで。  一度、唇の間で名を呼ぶと、玲央が、くす、と笑った。   「――――……オレ、向こうから、優月だけが、すごいよく見えてさ」 「……?」 「お前だけ浮かんで見える感じ。不思議だった」 「――――……何それ……」 「オレがお前を見てた時、お前ちゃんと分かってた?」 「うん、多分……」 「泣いてるし、すげー抱き締めたかった」  クスクス笑って。  ――――……玲央が、オレをぎゅうっと抱き締める。 「――――……」  あーなんか。  ……キラキラ離れたとこから、オレの所に、戻ってきてくれた、みたいな。   …………まあ、それでも、キラキラしてる事にかわりはないけど。 「着替えたんだね、玲央」 「ん。汗すごかったから。――――……汗臭い?」 「ううん。 玲央はいっつもいい匂い」 「――――……いっつも?」 「うん」  クスクス笑って、玲央はオレの頬に口づけた。 「優月、楽屋行こ、おいで」 「え。行っていいの?」 「ここ、すぐ掃除入るし。楽屋はメンバーと、あと少しの人しかいねーから、大丈夫。つか、ここに留めとくように受付の子に頼んだの、勇紀なんだよ。オレが着替え終わってお前に電話しようと思ったら、ここに居るからすぐ迎え行けって」 「あ、そうなんだ……」 「……連れてきてってワクワクしてたし、多分相当弄られるから、覚悟して」 「ん?? どういう意味?」 「行けばすぐ分かる。――――……こっちから裏に行けるから。おいで」  手を取られて、出入り口とは違う方に玲央が進む。  そのまま、玲央について、廊下を進んだ。  色んな人が居ても特に何も気にせず、玲央はオレの手を引いて歩く。  玲央が全然気にしないで、掛けられる声にも普通に答えてるから、何となく、そのままでもいいのかなと思えたりして。    なんか。  こういうのも。  こそこそ隠したりしないんだなあ、なんて思うと。  かっこいーなーなんて思って。      遠いステージから降りて、こんなにくっついて、オレの手を引いてくれる玲央が嬉しかった。

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