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第209話◇

「Ankh様」と書かれたドアの前で玲央が立ち止まった。 「あのな、優月」 「うん」 「甲斐の親戚が、レコード会社の人なんだけど……ちょっと強烈だから」 「……? うん」  苦笑いの玲央に、全然意味が分からないけど、とりあえず、小さく頷いた。 「まあ大丈夫、害はないはず。ただ少し、オレとお前の事、勇紀が話したから知ってるから」 「……う、ん??」  良く分からないまま頷くと、クスクス笑う玲央に、よしよし、と撫でられて。優しい瞳に、相も変わらず、ドキドキしてると。  玲央がドアを開けて、オレを中に招き入れた。 「わー優月ー!」  勇紀が抱き付きにくる。 「結構早く来れてたよね、良かった」 「うん」  さっきまであんなにカッコよかったのに、完全にいつも通りの勇紀に、ちょっと笑いながら、でもホッとする。 「皆すっごいカッコよかった」  オレを見てる皆に、そう言うと。 「泣いてたろ、ずっと」 「見るたび泣いてるから、つい見ちゃってさ。オレも結構、優月見てたぞ」  颯也と甲斐が苦笑いを浮かべながらそんな風に言う。  あ゛。見られてるし……見えるんだ、結構……。  涙はさすがに見えないだろうから……拭いてる手の動きかな…。  う―恥ずかしい……と、思ってると。  勇紀が、オレの肩をぽんぽんと抱いた。 「しょーがないよねー、この人が、しょっちゅう優月見てるし」  玲央にちらっと視線を流して、勇紀が笑う。 「優月が来た時の玲央の顔、見た?」  勇紀がオレに聞いて、めっちゃケタケタ笑い出す。 「めっちゃ笑顔だったよねー」 「……お前、うるさい。優月、返せ」  ぺり、と肩から勇紀を外して、玲央の方に引き寄せられる。    あはははー、と笑ってる勇紀の隣に、キレイな女の人が2人並んだ。 「――――……ふうん?」 「勇紀、この子?」  聞かれた勇紀がうんうんと頷くと。2人が一歩前に出て、オレの目の前に立った。 「……?」  玲央がさっき、言ってた人かな……?  すごい近くで見られてるんだけど……?? 「近すぎ」  玲央が、またオレの腕を掴んで、少し引き寄せた。  ふっと見上げると、玲央が、苦笑いしてる。 「なーにー、玲央、何で今私たちから遠ざけたのかなー?」 「そうよ、ちょっと感じ悪くない?」 「……美奈子さんも里沙さんも、至近距離から見すぎなんで」  玲央の苦笑交じりの言葉に、2人は、顔を見合わせて。 「いいじゃない、見たいし!」 「優月くんて言うんでしょ? こっちおいで」  手を取られて、引っ張られる。  後ろから、玲央のため息が聞こえる。 「ふふ、可愛い、この子。肌、柔らかい~」 「なになに、君は玲央の事、好きなの?」 「え……あ……」  初対面の女の人2人に、いきなりそんな風に聞かれて。  質問を理解した瞬間、顔が熱くなってしまった。 「――――」 「――――」  2人が、きょとん、として。  オレをますますマジマジと見て。かと思ったら、顔を見合わせて。 「やだうそ、ほんとに可愛いんだけど」 「なになに、この子、いくつ?」 「玲央たちと一緒? 嘘でしょー?」  ……美人なだけに、なんか迫力がありすぎて、対処しきれない。 「優月が超固まってるから、マジで返して下さい」  再三、玲央に引き寄せられる。 「……もしかして、玲央、本当に本気なの?」 「――――……」  玲央は、口を少し引き結んで。  瞳だけまっすぐに、2人に向けてる。  勇紀達がクスクス笑ってるのが、聞こえる。 「さっきのライブ、見てたでしょ?」  甲斐が笑いながら、2人に話しかけてる。  ……あ、そっか。甲斐の親戚、て言ってたっけ。 「StayもLoveもさ、今まででダントツ良かったし。分かるでしょ。……つーか、優月と会ってから、玲央、もう誰だかわかんねえ時あるから」  最後の方は、ふざけた感じで笑いながら、甲斐が言うと。 「まあ確かに。 玲央の歌、今日、ほんと一番良かった~」 「そっか、玲央は好きな子が出来ると、歌、良くなるのね。初めて知った……っていうか、だって玲央が好きな子とかって、今まで居たっけ??」  クスクス笑いながら顔を見合わせてる。  玲央を見上げると、ふー、と息を付いてて。  オレと瞳が合うと、くす、と笑って。 「歌良かった?」  と聞くので。  うんうん、と頷くと。  そっか、と、嬉しそうに笑う玲央が。  ……また、可愛いなーと、思ってしまって。    ステージでは、あんなに、カッコ良くて。  ……ていうか、いつもいつも、すごくカッコイイのに。  たまに可愛くて。  玲央はよくオレを撫でるけど。  オレも玲央を撫でたいなーなんて。思いながら見上げてると。 「――――……」  くす、と笑った玲央に、ちゅ、とキスされて。  びっくりして固まってると。  案の定騒ぎ出した2人の美人と、呆れて笑ってる皆と。  もう全然対応できなくて、ただ玲央の腕の中に隠されてるまま。  なんかもう、ライブから完全にいっぱいいっぱいで。  もーむり……。  こんなに、周りの会話が入ってこなくなったの、生まれて初めてかも……。  なんて思った。

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