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第210話◇

 やっと騒いでるのが落ち着いて、オレの耳に皆の声が届き出した頃。 「優月、紹介しとく。また会うと思うから」  玲央の言葉に、ん、と頷く。 「甲斐のおばさんで、美奈子さんと里沙さん。2人ともレコード会社の社長で、今はオレ達、里沙さんの所でCD出してもらってる。美奈子さんのとこで出すなら、全国展開する感じだけど――――……まだ、未定」  わー。女社長さん達。どうりで迫力あるなー…。  カッコイイ。  そう思いながら見てると、玲央がオレの肩を抱いて、2人に向き直った。 「で、花宮優月。大学同じで、オレらとタメ」 「優月です……」  何となく頭を下げて、そう言うと。 「なんか、玲央にはもったいないなー、そう思わない、姉さん」 「ほんとよね。 いいの? 玲央で」 「――――……」  クスクス笑ってる2人に、何となく言葉が出ない。  玲央でいいのと言われても、現状、別に付き合ってる訳じゃないし。何て言えば……と、玲央を見上げたら、玲央はふ、と優しく笑う。それを見ると、何だか自然と微笑んでしまって。 「まだ付き合ってるとかじゃねえから。いいのって言われても困るよな?」  玲央の言葉に、少し頷くと。   「ふふ。ほんと可愛い」 「まだ、恋人、ではないの?」 「……まだ。――――…… 今までの精算しねえと」  玲央が、そう答えた瞬間。  美奈子さんと里沙さんは、目を見開いて、玲央を見た。 「っうわー、嘘でしょ、玲央」 「玲央の口からそんな言葉が聞ける日がくるなんて……」  大袈裟に、泣き真似をしてる2人に、玲央が呆れたようにため息をついた。  ――――……なんか。  勇紀達と言い、玲央のお友達と言い、この2人と言い。  玲央に対する皆の評価って、ほんと、ものすごくはっきりしてる。それはもう、気持ちいい位。  いつも、同じ感じのやり取りが、目の前で繰り広げられてる気がする。  ここまで来ると、もう、ほんとに可笑しくなってきちゃう。  クスクス笑ってしまうと。  玲央が、嫌そうに見下ろしてくる。 「なに笑ってンだ、優月」 「……だって……皆、同じ反応すぎて……」  クスクス。玲央に嫌そうに見られても、笑いが止まらない。 「笑うなっつの」  頬に触れられて、むに、とつままれる。 「わー、ごめん、なさ……」  言いかけたら、玲央が、ふ、と笑って。  くしゃ、と髪を撫でてくる。 「――――……」  だから。  どーして、そんなに、優しい顔、するのって……。  どき、として。  固まってる。と。 「……何、この甘々なやりとりは」  美奈子さんが、勇紀達を振り返って、そんな風に言ってる。 「最近いつもだから、オレらはちょっと慣れてきたけど…」  勇紀の声に、玲央がちら、と視線を流してる。 「あー、なるほどねー……」 「いつもな訳ね…」  なんて、2人は笑ってる。 「優月くん、よろしくね」 「ほんと。玲央をよろしく」  よろしくおねがいします、と笑んだら、急にヨシヨシされてしまった。  玲央が、勝手に触んないでとか言い出して、美奈子さんと里沙さんと攻防を繰り広げ始めた時。  コンコン、というノックと同時に、ドアが開いた。   「Ankhの皆さん、打ち上げ会場準備出来て、他の方はもうご案内してます」 「はーい」 「ありがとうございます」 「行きまーす」  それぞれがそう返事をしてる。 「玲央、オレ、外で蒼くん待つね?」 「一旦入り口んとこ通って、3階の店だから、優月、そこまで一緒に行こ」  玲央の言葉に頷いて、皆で一緒に歩き出す。 「今日は、ちょっとだけ顔出したら帰るね? オレ、あんまり玲央の側行かないようにする」 「――――ん」 「あ、そか。優月、知り合いと入ってくるんだよね?」 「その方がいいかもな」 「まあ正解。今日はあんまり玲央の近く来ない方がいいよ」  勇紀と、甲斐と、颯也。順番に言ってくるので、返事をしてから、玲央を見上げる。 「優月、さっきのチケット、持ってる?」 「うん。持ってる」 「それ見せれば入れるから。なんかあったら電話しろよ。迎えにいくから」 「うん。分かった」  受付の所で玲央達皆と別れて、建物の外に出た。 「今、建物の外にいるよ」と、蒼くんにメッセージを送ってから、後ろの建物を振り返る。  この建物の中で――――……。  玲央たちのライブ、さっきまで、やってたんだよなあ……。  なんか、夢でも見てたみたいだった。  ほんとに。  ――――……カッコ良かったなぁ……。  頭の中、何だか未だにポワポワしてて。  心の中も、トクトク、鼓動が早くて。  浮かれたままの自分に、ふ、と笑ってしまいながら。  ぽー、と、ライブハウスを眺めていた。

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