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第212話◇
「でもさ、フィルターとかじゃなくて、誰が見ても、絶対カッコ良かったってば。すごい盛り上がってたんだよ?」
「ふうん――――……あ、そういや、やったってことはさ。付き合う事になったのか?」
「――――……やっ……たって、普通にいきなり言うのやめて」
初恋フィルターからの引き続きで、顔が熱くて、もう眉を顰めて蒼くんを見つめると、蒼くんは、くっと笑って頷く。
「――――……はいはい。ほんと……天然記念物って言葉って、お前みたいなのに使うんだろうな……」
「だっていきなり言うんだもん、恥ずかしいじゃん。なんか飲んでたら、絶対吹いちゃってるとこだから」
「はいはい、分かったから。で、付き合うの?」
んー。付き合う……。
「……玲央がね、さっき、言ってた他の人に」
「何て?」
「まだ付き合ってないけどって。精算してからにしないとって」
「へえ。セフレ精算する気になってるんだ」
「――――……惚れてるって、覚えといてって、言ってくれて……」
「ふーん。……良かったじゃん。セフレ精算して、付き合いたいってことだろ?」
「……多分」
うん、と頷く。
「良かったな」
「……うん」
少し間が空いてしまった事に蒼くんが気付いて、ふ、と見下ろしてくる。
「良くねえの?」
「――――……まだ玲央と会って1週間でさ。オレが大好きなのは分かってるんだけど、すごい急いで進んでる気がして。オレの為に言ってくれてるんだと思うんだけど……今までの玲央と、なんか、すごく違うみたいでさ。玲央の周りの人達が皆驚いてて……ほんとに、そんな急いで変わっちゃって、いいのかなあって……」
「いいんじゃねえの?」
「いいのかなあ……? 1週間ってさ。短いじゃん……?」
「まあ。分かるけど。 お前は本当ならもっと時間かけて、好きかどうかとか決めたいタイプだもんなあ……でもさ、それで結局今まで誰とも付き合ってきてない訳だろ?」
「まあ……そう、だね」
「だったら、色んな事考えすぎないで、感覚で大好きって今思ってんなら、それを信じて、たまには突き進めば?」
「――――……わー」
思わず、ぽかん、と口を開けてしまう。
何だよ、と蒼くんが笑う。
「感覚でって、玲央も言うんだよね。最初から」
「あ、そ」
「大好きで、一緒に居たいって……感覚だけなら絶対なんだけど」
「じゃあそれでいいんじゃねえの?」
蒼くんが口元緩めて、そう言うので。
「うん。そっか。そう、だね」
このモテる人達が、最終的には感覚だというなら、なんか本当にそんな気がしてくる。
オレは頭で考え過ぎなのかなー。
でもなー、色んな経験ないから、感覚って言われても、その感覚すら実はよく分からないんだよね。
ただ、好きっていうのだけは、分かるんだけど……。
「早く入ろうぜ、優月」
「あ、うん」
建物に入って、受付の子にチケットを出そうとしたらさっきの子だった。
オレの顔を見た途端、にこ、と笑った。
「チケット無くても大丈夫ですよ、ご案内しますね」
「何回も、ありがとね」
言うと、その子は、いえ、と笑う。
ふふ、さっきから親切な良い子だなーと思いながら、勇紀の知り合いって言ってたっけと思い出す。
「こちらです、どうぞ」
ドアを開けてくれる。
「ありがと」
「ドア、良いよ」
蒼くんが後ろで、彼女の持ってたドアを支えて、彼女にありがとうを伝えてる。一瞬蒼くんで視線が止まる彼女。すぐに出て行ったけど。
「……蒼くん、自然と何気なく女の子にモテてるけど……」
「は? そんなつもりねえよ」
「蒼くんに無くてもさー…」
「ほら入れ」
話を途中に、背を押される。
もー、と思いながら、中に入ると。
おお。なんか……。
ものすごく、きらびやか。基本的に暗めの照明で、なんかあちこちで、キラキラしたライトが光ってて、音楽も結構大きめな音で流れてて、圧倒される。
広いワンフロアーにいっぱい椅子が散らばってて、立ってる人もたくさん居て、一角に料理や飲み物っぽいものが置いてあって。とにかく、オシャレっぽい人がいっぱい。
「わ――――……」
「おー…優月の苦手そーな場所だな」
「……そうだけど」
笑いながら言う蒼くんに、苦笑い。
確かに今、一歩も進めないし。これどこに行けば良いんだろ。
「あそこ座ろ」
蒼くんがオレの背中に手を置いて押してくれて。
指された方に歩いてると、蒼くんが途中で飲み物をもって歩いてる女スタッフを呼び止めた。
「ソフトドリンクって何があります?」
「コーラとオレンジジュースとコーヒーとお茶です」
「優月、何がいい?」
「アイスコーヒーがいい」
「アイスコーヒーと、オレ、ビールで。あそこ座ってるので、よろしく」
「かしこまりました」
スタッフの女の子は、にっこり笑って、蒼くんを見つめた。
「優月、来いよ」
「うん」
一緒に歩いていって、壁際の、ちょっと静かな席に一緒に座った。
小さめの丸いテーブル席。座ると何だか、ちょっとホッとした。
「緊張してる?」
「ん、まあ……ドキドキしてる」
「なあ、ここって金いつ集めるんだ? 受付で取らなかったし。聞いてる?」
「ううん、あとで聞いてみるね」
「ああ。……で? あいつはどこ?」
「んー……?……あ、居た」
ちょうど玲央が、一段高いステージに上がる所だった。
まわりの人達に、押し出された感じで。
マイクを持ってるから、歌うのかな。
「なんか、ちょっとカラオケみたいに歌うかもとは、言ってた」
「ふーん。じゃあ今から歌か」
縦に長い部屋で、少し距離があるので、玲央はまだオレには気付いてないみたい。こっちの方が暗めだし、気づかないかも。
遠くから見てると、色んな人が玲央に話しかけてる。
玲央は、マイクをスタンドにはめながら答えてるから、曲でも決めてるのかなと思いながら。
何しててもカッコいいなあー…と、遠くからほくほくと見つめていると。
「――――……お前、いっつも、そんな顔して、あいつと居んの?」
「……え??」
そんな顔、とは??
隣でこっちを見てた蒼くんをまっすぐ見つめる。
「すっごいカッコいいなー、ほんとにカッコいいなー、玲央、大好きーっていう顔、なんかキラキラをしょってる感じがする」
「――――な……っ」
ぼっと、火が出るみたいに顔が熱くなった。
「そ、そそ、んなこと、思って、ないもんっ」
……って、思い切り、心を読まれてるけど。
蒼くんはおかしくてたまらないと言った風に、手で口元を隠して、クックッと揺れてるし。
「っとに面白ぇな…… 何でそんなに全部、顔に出んのかな、お前」
クックックックッ。
………もうだめだ、この人、この笑いに入ったら、笑うの止まんないし。
しばらく、ほっとこ。もう。
あ。玲央、曲決まったのかな。
まっすぐ、立った。
ほんと。立ってるだけで、キラキラしてるのって。
すごいなあ……。
また、ぽけ、とし始めた所ではっと気づく。蒼くんの視線を感じて、ぱ、と蒼くんを見ると。まだ可笑しそうに、笑ってる。
「もー、なんだよぅ……」
「いや、別に?」
クスクス笑う蒼くんに、ちょっと眉を寄せつつ。
オレは、顔を引き締めながら、玲央に目を向けた。
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