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第220話◇
「とりあえず、オレ、|雪奈《ゆきな》と話してくる」
「ああ、雪ちゃんか」
勇紀がいってらっしゃいと笑う。
「私たちは、適当に何人か社員と相談しとくから」
「お願いします」
美奈子さんの言葉に頷いて、一旦話し合いを終えて、雪奈の近くに歩く。
1人でスマホを見てたからちょうど良かった。
「雪奈、話せるか?」
「あ、玲央。やほー」
幼稚園から高校まで一緒だった。大学は別の女子大に行ったけど、サバサバしてて、顔は可愛いけど、中身は結構男っぽい。
おかげで、仲良くしてても、一切恋愛ぽい雰囲気にならなくて、今も気軽に話せる、結構貴重な女友達。
「ねね、玲央って、恋人できたの?」
「……出来てないよ」
雪奈が、あれ?と首を傾げてる。
「Loveの意味が分かってきたとか、意味深な事言うからさ。相当SNSがざわついてるんだよー? なんだ、違うの?」
ん?
「……ざわついてんの?」
「うん、今ちょうど見てたの。めっちゃざわついてるよ。私今、詳しい事知ってますかって、聞かれてる所。――――……見る?」
スマホを見ながら、クスクス笑う雪奈。
「見せて」
「うん、どーぞ。ここらへんかなー」
少し弄って、雪奈がオレにスマホを渡してくる。
少し眺めて。思わず苦笑い。
ざわついてるとかのレベルじゃなくて。
……かなり、大騒ぎ、みたいな感じだな。
でも今この流れてる感じだと、意味が分かるようになってきたなんて曖昧な言い方だから、ものすごく曖昧なまま騒ぎになっているだけ。
「――――……その聞かれてる事、何て返そうと思ってた?」
「うーん、今悩んでたとこだった。どうしたらいいとか、ある?」
「ちょっとさ。協力して欲しい事があんだけど」
「え、何々? 言ってみて?」
「オレ、結構遊んでたの知ってるよな?」
「うん。 ていうか、アンクのファンなら誰でも知ってるけど。玲央と1回でも!てファンも多いでしょ?」
あはは、と笑ってる。
「……オレ、好きな奴が出来たから、そういうの、終わりにしたいんだ」
「ええええっっマジで!!?」
「マジで」
「そうなんだ! すごい、玲央の事、そんな風にする人、見てみたい」
「――――……じゃあ、後で、雪奈にだけ教える」
「え。いいの?」
「でも普通の奴だよ。あと、相手、男だから」
「ええっ? ……ごめん、今、話に全然ついていけてない」
しばらくうーん、と考えてから。
「……ん? 玲央が、男の子に、片思いって事なの?? その男の子は玲央のことは?」
「オレのが確実に好きだと思う」
「えーーー! もう、どんな人ー?? 超見たい」
「後でこっち来たら教える。――――……オレが片思い中って流せる?」
「うん、それ位は流せるよ。 ライブに行ったら、玲央がそんなような事言ってたって」
「こっちからも流すんだけど、雪奈みたいに昔っからずっと流してくれてる奴の影響力、半端ないから」
「うんうん、任せてよ。玲央の片思い、応援してあげよう的にもってくから!」
「んなことできる?」
「できるって。遊び歩いてる玲央でも応援してる子達が多いんだから、片想い中とかなったら、絶対萌えるって」
話、早い。
さすが、自称アンクファン歴最長。フォロワー数半端ないもんな。
たまに直に情報知らせて、さりげなく流してもらったりする位、影響力がすごい。
最初の学園祭から、ファンだからって言われた。
玲央には恋愛感情は一切ないけど、アンクは愛してるってずっと言ってる。
「任せといて。でもその人、見せてね? 内緒にするから」
「了解。そしたら、あとでこっち呼ぶから、さりげなく見て」
「うん、分かった。楽しみ」
「じゃ後で」
「ん」
雪奈と一旦離れて、メンバーのとこに戻る。
「あとでこっそり優月を見せれば大丈夫そう」
「はは。見たいのね」
「そーらしい」
「じゃあもう、玲央が遊ばないって噂は流れるだろうし、あとは長い奴、1人1人、断れば話は済む? それで優月は信じられるのかな」
勇紀の言葉に、んー……と唸ってから。
「さあ……どうだろうな?」
と呟く。
「……オレ、優月の事も、お前に興味がある、とか言って、会って数分で誘ったからなー……」
3人マジマジとオレを見てくる。
「うわー、よくあの優月が、そんなんと一緒に居ようと思ったねー奇跡じゃない?」
「そんなんとか言うな。……まあでもそんなんだったから――――……だから、また別の気になる奴が居たら、ああやって誘うんだと思うよな、きっと。そっちもどーにか信じてもらわねーと……」
「――――……」
「まあでもそっちは、オレがどこか行ってるとか疑えない位、優月と一緒に居れば良い気がするんだけど」
多分、それしかないんだろうな。
1人納得して、ふと気づくと。
3人とも、すげえ可笑しそうに笑ってる。
「あ? 何?」
「ていうか、それ、お前が優月と居たいだけだろ」
クスクス笑う颯也に。
「……まあそうかもだけど」
そう答えると、全員がそれぞれ崩れた。
「……つか、なんなのオマエら、コントでもしてえの?」
「オレらのせいじゃねえわ」
「そうだよ、玲央だよ、玲央」
甲斐と勇紀が突っ込んできて。
颯也がふ、と笑った。
「つーか、オレらって、相当付き合い長いって、思ってきたけど……玲央って、そういう奴だったんだな」
「でもさ、よく考えると、最初は玲央、そうだったのかも。そういえば、最初はちゃんと付き合おうとしてたような気がするもんね」
「すげえ遠い昔だけどな……」
昔を思い出しながら楽しそうな3人をスルーしつつ。
そろそろ優月来ねえかな?と、見回すけど、まだ見つけられない。
「蒼くん」が遅いのか?
……早く来ねえかな。
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