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第221話◇

   打ち上げの途中で、歌ってと言われて、一段高くなってるステージの台に乗って、フロアーを見渡したら、優月を発見。  嬉しそうに手を振ってるし。  こっちも嬉しくなる。  これが良い、と選ばれた歌の音楽がかかって。  歌い始めたら、1人、一緒に歌いたいと言い出した。  ワンフレーズだけ歌ってすぐ下ろさせたけど。  気になって優月を見たら――――……どう見ても泣いてるし。  ――――……まさか今の、デュエットしたから泣いてんじゃねえよな??  普段の優月のセリフから考えれば、それで泣くのは違うとは思うのだけれど、じゃあなんで泣いているんだと、もう、泣いてる優月の事しか気にならなくて。  曲が終わると同時に、優月の元に向かってしまった。  ……ダメだって、分かってんのに。  近づいたら、泣いてる優月が可愛すぎて。  キスしないでいるのが、大変で。  とりあえずその涙だけ、触れて、拭ったけれど。  次の瞬間、ダメだろ、トイレ行ってこい、と優月の隣の人が言って。  はっと気づいた顔をして、優月が急いで、出て行った。  座ってと促されて、その人の隣に座る。  ……すげえ、周りの視線が飛んできてたな…。  良かった、優月にキスしなくて。  あぶねえな、オレ。――――……泣いてる優月とか。  引き寄せられるみたいにキスしそうになってるし。  隣に居た人は、優月の「蒼くん」。  蒼さん、と呼ぶことになった。自然と、玲央、と呼ばれる。  優月の話からも、イケメンぽいなとは思っていたけれど。  想像以上だった。 モデルとかじゃねえの?と思うけど、絵とか写真とか言ってたよな……。  まあ、でも、顔もそうだけど。  ――――……なんか、大人の余裕、みたいなのを、すごく感じる人で。  幼馴染、近所の商店街の人達、友達たち、でもって、こんな感じの人にも可愛がられて、優月は生きてきたのか、と思うと。    何か、優月があんな感じで生きてこれたのも分かる気もして。  でも、優月があんな感じだから、可愛がられてきたのかなとも、思うし。  どっちが先なんだか、分かんねえけど。  どっちにしても、優月のあんな感じをずっと守ってきた人なのかと思うと。  何となく、背筋が、伸びてしまう。  この余裕な感じに、負けたくない、とも、思ってしまうけど。  それは、ますますこっちが、ガキっぽいか、とも思いながら。    優月が泣いた理由は。  ――――……オレと離れたくないから。  蒼さんが、離れろと言ったんなら、優月なら、アドバイス聞くとこなんだろうけど――――…… でも、蒼さんが言っても、オレと離れたくない、と、言って泣いたんだと聞いたら。  さっきの涙が余計、愛しくて。  今すぐ優月の所に行って、連れ帰りたいのだけど。  まだ打ち上げも終わらないし。  さすがに、投げ出して帰るわけにはいかないし。  後で、優月と一緒に、蒼さんにも来てもらう事にしたけど――――……。  来てからどうなるかも、ちょっと分かんねえな。    まあ、とりあえず、雪奈に優月を見せて、頼むってことと。  蒼さんが近くに居てくれたら、優月は大丈夫そうだし。  ――――……ふ、とため息。  ――――……奏人は、直接言った方がいいな……。  男何人か関係したけど、続いてたのが、奏人だけってこと、気付いてるだろうし。奏人には、昨日、優月と一緒の所を見られてるし。  少し気が重い。  オレを本気で好きなんだろうってのも知ってたのに、何も言ってこなくて居心地が良いのを良い事に、ずっと続けて。もう2年位か?  ――――……それで、オレが選ぶのが男とか。  多分、奏人にしたら、納得いかねえだろうと、嫌でも分かる。  ……女だったら、諦めたんだろうけど。  今になって、優月を好きな気持ちで、奏人の立場からオレのやってた事を考えると――――…… すげえ、ひどいと、思うから。  女含めて、全てのセフレの中で、奏人に言うのが、なんだか、一番、気が重い。  昨日、優月と居る所に来た奏人。優月を先に行かせて、2人になると。 「玲央、忙しい?」と言われた。  ああ、と答えると。「今の子ってさ――――……」 そう言いかけた奏人は、まっすぐ奏人を見つめたオレに、「やっぱりいいや」と言った。  そのまま、明日ライブでね、と笑顔で立ち去って行った。  ……優月の事を、聞きたかったんだろうけど。  あそこで、無理やり言葉を切った気持ちも、何だか今だと痛い程、分かってしまう。  ……どう、すっかな。  ここじゃない、方がいいよな。  ――――……奏人だけは、2人きりの時に話そう。  そう決めて、今日は、もうこれ以上動かない事に決めた。  一晩とかのセフレは、SNSで。  長かった女のセフレは、とりあえずメッセージを送って、返事次第で個別に対応する。奏人だけは、会って話して、ちゃんと、セフレを解消する。 「玲央、大丈夫? まだ考えてる?」 「いや――――…… むしろ今日はもう、動かねーから」  そう言うと、勇紀は、そっか、と笑った。  勇紀が逆隣にいる彼女の方を見て、楽しそうに話しだした。  颯也は甲斐と話してて。美奈子さん達は、フロアの端でスマホを見ながら話してる。多分さっきの打ち合わせ中。  ――――……オレが、適当にやってきたこと。  今更好きな奴が出来たとか言い出して、協力してもらったり、相談したり。  悪いなと思いながらも。  ――――……ありがたいなとも、思う。  これで全部、片づけたら。    ふ、と、奥の扉が開いたのが見えた。  優月と蒼さんが、入ってくる。  顔ははっきりは見えないけど、もう涙を拭いてるような動きじゃない。  ちゃんと泣き止んでるな……。  さっきみたいな事で泣くのも。  もとはと言えば、優月が、オレと居ない方が良いって、心の底で、思ってるからなんだろうなと思う。  オレと居ない方がいいから、蒼さんが言った時に、そうすべきだと思ったけど、でも、オレの事が好きだから、葛藤して泣いた、て事だろうし。  ちゃんと、過去の関係、全部片づけたら――――……。  優月に、言おう。ちゃんと。    

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