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第222話◇

【side*優月】 「そろそろ、あっち行ってみるか?」  蒼くんの言葉に、少し、躊躇う。 「んー……ほんとに来てって、玲央が言ってた?」 「まあどうなるか分かんないけど、つってたけど」 「……じゃあ少しだけ行って、あんまりだったら、もう帰ろうかな……」 「優月の好きにしな」 「うん」  蒼くんと一緒に、玲央たちが居る、前の方に近付くと。  玲央と目が合った。玲央が、ふ、と優しく笑ってくれたので、いいんだ、と思った瞬間。   「優月」  勇紀が笑いながら近づいてきて、オレを引っ張る。 「座って座って」  と、勇紀の隣に座らせてくれる。  多分、これはきっと色々からガードしてくれてるんだろうなと、思う。 「そちらの、すっごいイケメンのお兄さんは? 優月の先生?」 「あ、んーと。先生はそのお父さん、なんだけど……うん、蒼くんも先生みたいな感じ」 「オレ、勇紀です。優月には倒れたとこ助けてもらってから、仲良くしてもらってます」 「ん。助けたのか?」 「あ、そう。駅でね」 「家迄ついてきてくれたんだよね、優月」  ぷ、と蒼くんが笑う。 「よろしく。オレは、優月の――――……先生っつうよりは、保護者、かな?」 「蒼くんも先生だよ? 保護者みたいでもあるけど」  クスクス笑ってそう言うと、勇紀が、笑った。 「蒼さん?も、座りますか?」 「とりあえず、飲み物もらってくる。優月もお茶でも飲むか?」 「あ、うん。ありがとう」 「ん」  蒼くんが、に、と笑って、歩いていく。その後ろ姿を見ながら、勇紀がオレを見つめてくる。 「はー、何か、すっげえカッコいい人だね。年上だよね?」 「うん。30才だよ」 「見えない。若い。でも、年上っぽい雰囲気はあるし」 「うん。そうだね」 「玲央にも張る位のイケメンって、珍しい」  クスクス笑いながら勇紀が言う。 「優月こっちに来ないようにするって言ってなかったっけ?」 「あ、うん。……なんか、玲央が蒼くんに後で来てって言ったって……」 「……ああ、あれだね」 「ん?」 「あのね、玲央さ、ここで好きな人がいるっていう噂を流しちゃいたいんだって。一晩限りのセフレとかは、それが流れればもう連絡してこないだろうって。でね、その噂流してもらう為に頼んだら、その子が優月を見たいって言ったみたいでさ。――――……ああ、今玲央が話してる女の子」 「――――……そう、なんだ」 「玲央本気で、セフレ、解消しようとしてるからさ。さっき皆で相談して、長い子達とは個別にやり取りした方がいいって事になったから、そっちは少し時間がかかるかもしれないけど――――……」  勇紀をまっすぐ見つめていたら、勇紀が急に、ふ、と笑った。 「玲央は玲央でまあ、自分なりに頑張ってるから。優月は優月で考えな? まあ無理する事でもないしね」 「うん。ありがと」  勇紀、ほんと優しいな。  今も玲央、その女の子と、ずっと話してる。  皆に相談して、セフレをどうしたらいいか、話してくれたって事だよね。  玲央が色々考えてくれるのは、すごく嬉しい。けど。  …………そんなに急いで、無理、しなくて、いいのに。  こんなライブの日にまで、そんなこと……。 「優月、あんまり嬉しくない?」 「……ううん。嬉しい。んだけど……ライブの日でさ。疲れてる時にまで、そんな事してくれなくてもいいのに、て……」  何となく、少し視線を落として、そう言ったら。 「あー、ちがうよ。ライブの日にまで、やってるって話じゃなくて。ライブの日だからこそさ、Stayを歌ったり、Loveの意味が分かるとか言ったりしたからこそ、今日流したかったんだよ」 「――――……」 「いーんだよ、優月は、そんなの気にしなくて。玲央が勝手に優月を大好きんなって、優月に信じてもらいたいから勝手に急いでるだけ」 「――――……ね、勇紀?」 「うん?」 「玲央は、オレが玲央のこと、信じてないって、思ってるの?」 「……んー? んー……なんか語弊があるかなあ…… うーんと…… あれだよ、玲央がキスしてても平気、とか、優月、言うでしょ?」 「……あ、うん」 「今までしてたんだし、それ分かってて玲央のとこに行ったんだから平気、みたいな」 「……ん」 「それが嫌なんだよ、玲央。他の人としないって、信じて欲しいんだと思う」 「――――……」  ……玲央って、色々あって「恋人」が、煩わしくなっちゃったけど。  きっと元々は、誠実な人、なんだろうな……。  ……過去の玲央の話を色々聞いてて。  玲央はそういう風に、色んな人と付き合ってきた人だって、知ってて。  それを、オレが、絶対やめてなんて、言えないと、思ってたから。  分かってるから平気、と勝手に思い込もうとしてて。  玲央が別の人と会ったり、そういう事しても、知ってたから平気って言えるように。オレが、傷つかないように。  オレ、自分でも知らない内に、予防線を張ってたのかもしれない。  そのせいで、玲央が、今、頑張って、くれてる…?  ……オレの前に居てくれてる玲央は。  ずっと、優しくて、本当に、まっすぐで。    本当に、カッコいい人だって。  オレ、思ってる。 目の前に居てくれてる玲央を、信じてない訳じゃない。  なんか、自分でもここんとこの気持ち、複雑すぎて。  どう言ったら、うまく伝わるんだか分からないけど。  玲央に、言ってみよう。  オレの前に居てくれてた、玲央の事は、全部、信じてるって。  これからの、玲央の事も。信じて、一緒に居たいって。  

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