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第226話◇
「雪ちゃん、キツイなあ」
勇紀が笑いながら、雪奈ちゃんに突っ込んでる。
「んー……だって、優月くんが、玲央が最高みたいな感じだから。つい……」
あは、と雪奈ちゃんが笑う。
「玲央は友達だと良い奴だけどさ――――……でも、そういう相手からしたら、ずっと一緒にとかいう人じゃないと思っちゃうんだけど」
「玲央と恋人になりたいって言い出す子も、色々やばくなっちゃう子も多かったけどね……」
「それはちょっと別の話だけど……どっちにしても、玲央の気持ちはそこには全然無かったしさ」
雪奈ちゃんは、クスクス笑いながら、オレを見つめる。
「あたし、玲央が、誰かに信じて欲しいとか、そんな事言う日がくるなんて思わなかったの。 超びっくり」
「――――……」
「でも、玲央が、優月くんのこと大好きなのは、すごく分かったというか…… 何て言ったらいいんだろ?」
んー、と考えながら、勇紀に視線を向けてる。
「玲央、優月の事、可愛くてたまんないって顔するから。もう、びっくりもなく、オレは納得してきたけどね?」
「あ、それは、あたしも、さっき玲央と話してて思ったよ」
雪奈ちゃんは、じー、とオレを見つめて。ふふ、と笑った。
「あたし、昔から玲央の事知ってるけどさ。あんな玲央は、初めてなの」
「――――……」
……あ。また、だ。
あんな玲央は初めて、こんな玲央は初めて。色んな人がそう言う。
玲央自身も、自分の事、意味が分かんないって言うし。
「――――……」
初めて、かあ……。
――――……この1週間。玲央とずっと一緒に過ごしながら。
玲央の周りに居る人達と、なんかものすごく絡みながら。ずっと玲央の事、見てきて。
「オレにとっての玲央」は、
皆にとっては、「初めての玲央」らしいけど――――……。
んー…………。
なんか、あと少し、で。すごく、思ってること、はっきりしそう。
「優月くん?」
呼ばれるけど、少し俯いたまま考えていたら。
ふ、と、急に、解けた気がした。
――――……ああ。
そっか。
なんか、今。
急に、すとん、と自分の中に、色々、落ちた気がした。
今の玲央は、周りの人達にとっては、知らない玲央、みたいだけど。
玲央自身にとっても、おかしいなって思う玲央、みたいだけど。
――――……玲央は、もともとは、オレにとっての玲央みたいな人だったんじゃないのかな。
詳しい事は聞いてないけど、色々理由があって、ドライな関係が楽だって思ってただけで。
――――……もともとは、すごく優しくて、愛情深い人、なんだと思う。
じゃなかったら、あんなに、優しく触らないし、あんな風に瞳を優しくして笑ったりできないと思うし。
本気になってない、皆が言うところの「冷めてる玲央」に、それでも本気になっちゃう子達が多いのは、玲央がそういう人だって、きっと、気付いてるからだって、思う。
――――……最初に会った時に玲央がつぶやいてた、ぼっちって言葉も。ずっと、心の中に引っかかってたけど。
何となく、意味が、分かったような、気がする。
もともとそういう人なのに、結構長いこと、ずっとドライな関係続けてきてて。ちょっと、疲れてたんじゃ、ないのかな。
楽でいいって、思いながらも。
そこに、今まで、関わらなかったオレみたいなのがひょっこり居て。
……タイプじゃないし、好みでもないけど、とか言って、関わって。
よく分かんないけど、何かを気に入ってくれて。
一緒に居たいって、思ってくれて。
好きって、思ってくれて。
オレは、そんな玲央が――――……すっごい、好き、で。
めちゃくちゃカルチャーショックを受けながらも。そばに、居たくて。
オレは、今の玲央が、すごくすごく好きで。
――――……一緒に、居てほしくて。
オレと、一緒に居たいって言ってくれてる、玲央。
ずっと玲央と居た勇紀達が、玲央がオレと居ると楽しそうって言ってくれて。 オレが、玲央の側に居る事で、玲央が楽しいって思ってくれるなら、ずっと側に居たいとも、思って。
先の事とか。今迄のこととか。いっぱい考えてきたけど。
不安になったり。してたけど。
でももう。
――――……それで、いいのかも。
先の事、信じる信じないなんて、いくら言ったって、分かんないし。
過去のこと、気にしてても前に進めないし。
……オレが玲央を好きな気持ちは、今は絶対だし。
ただ、お互い、一緒に居たい間は、一緒に居れれば。
なんかもう。
一緒に居られる間はきっと、すごく、幸せだと思う。
この1週間、ずっと優しくて、ずっとまっすぐオレと向かい合ってくれてた玲央が、何だかいっぱい頭を過ぎって。
もうなんか――――…… やっぱりオレ、すっごく、玲央が好きだなあ、と。思っていたら。
「……優月、くん?……」
雪奈ちゃんの、めちゃくちゃ戸惑ったみたいな声。
「?」
びっくりしてる顔をまっすぐ見つめ返して。ん?と首を傾げて、瞬きをした瞬間。ぼろぼろっと、涙が溢れた。
「――――……あ……と……」
……なんかオレ今日、涙腺、壊れてるな……。
泣いてる事にも、驚かなくなってきちゃった……。
ぐい、と手の甲で涙を拭う。
「大丈夫、優月?」
勇紀が、ふ、と苦笑い。
「……ん。大丈夫」
「どしたの?」
勇紀にそう聞かれて。
「ん――――……なんか、やっぱり、玲央が好きだなって思ってたら……」
言った瞬間。
あ、と、勇紀が、オレの背後、少し上向いて、苦笑い。
「――――……何、また泣いてんのかと思ったら……何言ってんの、優月?」
背後で、すごく、笑いを含んだ、玲央の優しい声がして。
あ、と振り返って見上げると。
「お前、どんだけ今日泣くの」
クスクス笑う玲央が、オレの頭をクシャ、と撫でた。
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