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第227話◇
【side*玲央】
雪奈と話していると、優月と蒼さんが勇紀達の所に来た。
雪奈に、優月の事を教えると。
「何であそこ2人スーツみたいな服着てるの?」
「優月はバイト帰りだったから。もう1人の人の仕事の手伝い」
「ふーん。ていうか、あのお兄さん、すっごいイケメンすぎ。優月くんの元彼とか?」
オレの表情を見て、雪奈は「冗談だよ」と、クスクス笑う。
「優月くん、ここから見る限り、今までの玲央の相手とは、イメージ違うね」
「……そーかもな」
……もう言われ慣れてきた。
つい、苦笑い。
オレが、今までと全然違う。
優月が、オレが選ぶタイプじゃない。
まあ――――……自分でも思うし、何度も言われたし。
「ねね、優月くん、お話してみてもいい?」
「……いーけど。変なこと」
「言わないけど。……言われて困るのってどのあたり?」
「……まあないけど。オレがどんな感じで来てたか、知ってるし」
「じゃあいいじゃない。玲央は来ないでね、あたし優月くんと話したいから」
クスクス笑いながら雪奈が立ち上がって、いってきまーす、と優月に向かって歩いていく。
「――――……」
ふ、と息をついてると。
今まで雪奈が座っていたと所に、奏人が座った。
「玲央、お疲れ」
雪奈より、かなり距離が、近い。
「ああ。……ありがとな」
「あのさ……玲央、いつ会える?」
――――……奏人とは別のところで話そうと思ったけど……。
今、誤魔化すわけにも、いかないか。もう、分かってるような、言い方な気がする。
「――――……奏人、あのな」
「……無理」
言いかけた所で、奏人が遮った。
「――――……セフレやめるとか、嫌なんだけど」
「――――……」
まあ。鋭い奴なのは分かってるから、驚きはしないけど。
「……オレ、玲央に本命が居ても気にしないし」
「――――……」
「…………今まで通りで良いじゃん。たまに会ってさ。何でダメなの?」
「……昨日夕方一緒に居た奴でしょ?」
「――――……ああ」
「……オレ、今まで通りセフレでいいし。 玲央と切れるのは、嫌だよ」
「奏人……悪い」
「――――……」
「セフレの関係続けたままじゃ、向き合えないから」
「――――……何、向きあうって」
「……オレ、今、あいつに信じてもらいたいんだよ」
「――――……」
奏人が、黙ってオレを見つめる。
「……オレが今までセフレ何人もで、過ごしてたから。ちゃんと信じてもらうの、ただでさえ時間かかりそうだから」
「今までの皆と、何がちがうの? ていうかさ。ほんとは、分かってるよ。……セフレ、恋人が出来たら別れるって、約束だったし。でも、恋人じゃないんでしょ? まだどうなるか、分かんないんじゃないの?」
「それでも……悪い」
「……また話そ、玲央。今日は、ここまででいいや」
「奏人。……悪いけど、また話しても、変わらない」
「――――……」
「ごめんな」
まっすぐ見つめると。
奏人は、小さくため息を吐いた。
「とりあえず、今は聞いた」
そう言うと。
そのまま、奏人はオレから離れて、知り合いの方に歩いていった。
もう今日は――――……これでしょうがないか。
ふ、と息をついて、顔を上げて。
雪奈と話してる優月が気になって視線を向けると。
――――……って。
何だ? また泣いてるのか、優月。
蒼さんに、泣かせるなって、言われたんだけどな……。
引き取られたら、困るし。
立ち上がって、優月に近付くと。
「……やっぱり、玲央が好きだなって思ってたら……」
話しかける直前で、そんな声がした。
奏人との話で、少し憂鬱になってた心が、ふ、と浮上した。
「――――……何、また泣いてんのかと思ったら……何言ってんの、優月?」
笑ってしまう。――――……振り返って、あ、と見上げてくる涙目の優月が可愛すぎて、抱き締めたいけど、ここでは我慢。
「お前、どんだけ今日泣くの」
クスクス笑ってしまいながら、優月の頭をクシャ、と撫でた。
今は、これが精一杯。
「……もう大丈夫。もう、泣かないよ」
「――――……」
微笑んだ優月が、オレをまっすぐ見つめて、そう言った。
――――……なんだかすごく、まっすぐな瞳。
キレイな瞳だな。
もう大丈夫、という言葉が何だか少し気になるけれど後で聞こう、と思いながら、オレは頷いた。
隣で、面白そうにオレを見てる雪奈に目を移す。
「――――……雪奈、優月と話したいこと、話せた?」
「うん。話せたよ」
「そっか。……感想は?」
自分でも良く分からないオレの質問に。
雪奈は、んー、と唸って。それから、クスクス笑った。
「……涙がさぁ。 綺麗すぎて、ズルい、かな」
「何だ、それ」
その言葉に、ぷ、と笑ってしまう。真下で聞いてた優月も、え、という顔で雪奈を見て固まってる。
まあ。分からなくはないけど。
急に、びっくりするような、涙を、ぽろぽろと、こぼす。
――――……多分、オレとの事が無かったら、こんなに泣いてないのだろうけど。
早く、落ち着いて。
そんな風に、優月が泣いたりしないようにしないといけないのだけど。
……でも、優月が、自分で気づいてないような感じで零す涙は。
まあ――――……本当に、可愛いと、思ってしまうけど。
優月と雪奈から少し離れ、蒼さんの隣に、腰かける。
「お。何?」
ふ、と面白そうに笑む。
こういう感じが、多分、いつもからかわれてると優月が言うのかなと、なんだか納得しながら。
「――――……もう今日は、これ以上はオレ動かないので。……優月に迷惑かからない程度で自分で動きます。オレ今からステージで少し歌ったりしなきゃいけないんで、その間に何かあったら――――……優月おねがいしていいですか?」
「ふうん。ていうか、そこは言われなくても、だけどな」
「……迷惑かけたらすみません」
「可愛い優月の為だし、別に何も迷惑でもないけどな」
「――――……」
返事に困ったオレに、蒼さんは、可笑しそうにぷっと笑った。
「深い意味ねーよ? 恋愛感情なんて無いっつったろ? まあ今はふざけたけど。そんなあからさまに困った顔すんなよ、意外に素直なー、お前」
クックッと笑う蒼さんに。
――――……ああ、これか、からかわれてるって。
と、また実感する。
「――――……なあ、今奥で話してたの、セフレ?」
「……はい」
「……手強そうだなー」
「……かも、ですけど……まだ納得はしてくれてなさそうですけど、まあ、話すしかないんで……。そのほかの事も、少しずつ、解消できると思うので」
「思うので、何?」
「優月が多少泣いても、引き取らないでくださいね。あと今日、オレ、優月連れて帰っていいですか?」
「――――……」
オレのセリフに、蒼さんは、ぷ、と笑って――――……はいはい、と、頷いた。
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