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第229話◇

 玲央たちが挨拶とともに、演奏を始めた。  カッコイイなー。  もう、心の中、それだけになって、ずっと見ていたら。  ふと、誰かが隣に立った。  自然と見上げると。  あ――――…… 奏人、くん?  一瞬、混乱する。  ……オレに用、なのかな?  と、ふと、近くを振り返るけど、蒼くんしか居ない。  蒼くんと目が合うと、ちょっと意味ありげな視線だけど。  うん。後ろ、蒼くんしか居ないし。  やっぱり、オレと話しに来たのかな。  と思って。  蒼くんと目を合わせたまま。最後に目線を逸らして、奏人くんに向かい合った。 「――――……」  言葉が出ない。  昨日、少し、顔見て、少し、話しかけられたけど。  何言ったらいいのか。 「こ、んばんわ……?」  とりあえず、そう言ったら、奏人くんは、オレをまっすぐ見つめた。 「玲央に、何したの?」  そう言われた。 「――――……」  何、した? 何した……。  なんとも答えられなくて、見上げていると。   「オレ、2年以上も、ずっと玲央と居たんだよ。――――……先週も、普通に玲央と過ごしてた」 「――――……」  声は出せずに、ただ、頷く。 「なのに、何で急に――――…… 玲央に、何したんだよ?」  何。したんだよ。  ――――……何した…… 適当な言葉が全然出てこない。  どうしよう、と思っていると、奏人くんが続ける。 「あんたの何が、オレより良いの? 全然納得できないんだけど」  あ、うん。  ……それは、分かる。オレもそう思ってたし。絶対この子の方が綺麗だしとか、昨日も色々思ってたし。  でもこれを言ってもきっと、怒らせるだけだと思うから、答えられずに、心の中で思って、答えられずに黙っていたら。 「……あのさ。そういうのは、玲央に」  蒼くんが、後ろからそう言いかけたので、すぐ振り返って、一瞬首を振った。すぐ蒼くん、ちょっと面白そうな顔をして、口を閉じた。  ちょっと笑ってる蒼くんに、もう、何楽しそうなんだよっ、と思いつつ。  奏人くんの方を向き直すと。 「オレ、諦める気、無いから。どうせすぐ、玲央も飽きるだろうし」  そんなに激しい言い方では、ない。  睨みつけられてる訳でも、ない。  ただまっすぐに静かに、オレを見て、そう言う。 「……何で何も、言い返さないんだよ」  不満そうな奏人くんに、黙ってちゃダメだと思いながらも、なかなか言葉は出てこない。 「あの――――……言ってる事、分かる、よ……」  オレが、何とかそう言ったら。奏人くん、眉を顰めた。 「……オレに納得できないのも、分かるし。すぐ飽きるとかも……無いなんて、言えないし。オレ、男同士とか……1週間前までは、考えた事もなくて」 「――――……」 「……分かんない事ばっかりなんだけど。オレも玲央を、好きなのは……きっと変わらないと思うから、好きなのを諦めるとかは、無理だと、思うし」 「――――……」 「だから……言ってること、分かる……」  そこまで言うと、黙ったままの奏人くんにちょっと困る。 「って、オレに分かるって言われても、だから何って感じだよね……えっと――――……」  あれ、これ以上、何を言えばいいんだろう、オレ。  どうしよう、と思って、奏人君を見つめていると。 「オレ、この2年でさ玲央と数えきれないくらい、セックスしたんだよね」 「……」  急にすごいワードが飛び込んできて、戸惑うけれど。   「……でも、それ、オレだけじゃなくて、他のセフレも一緒。 セフレって、そういうもんだし。――――……そんなの、お前、平気なの?」  そんな風に聞かれて、しばらく、黙ってしまう。  平気……ではない。  オレにしてるみたいに、誰かに触れてる玲央とか。  全然、想像したくは、ない。  でも。それは、オレと、会う前の話、だし。……オレ、そもそも最初は、一晩でも、と思ったし。……セフレになろうと、してたし……。  ……それを否定することは、できない。 「――――……平気、ではないけど…… でもオレ、最初はその仲間に、入れてって、玲央に言っちゃった、し…… どんな形でもいいって思う気持ちは、分かる、というか……」 「――――……何が分かんの、マジで」 「…………玲央が好きって事だけだよ。……諦めたくないとか、セフレでもいいとか。そこら辺は……分かるけど……」  分かるけど。  ――――……これ以上、なんて言ったらいいんだろう。 「……ほんとに、お前、玲央が好きなの?」 「――――……うん」  頷いて、しばらくまっすぐ見つめあう。  すると。  奏人くんは、はー、と深い息をついた。 「――――……は。もういいや」 「え?」 「すっごい、納得いかないし、ムカつくけど……オレ、しつこくして玲央に嫌われんのは嫌だから。今は、1回退く。でも、覚えとけよ。諦めないから。――――……どうせすぐ、飽きるって思ってるし。別れたら、速攻玲央に迫るから」 「――――……」  ああ、なんか。  ほんとに、好きなんだなー、玲央の事……。  気持ちが分かるだけに、何も言えず。  ただ、声も出さず、奏人くんを見つめたまま、頷いた。  

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