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第231話◇

 結局、その後、変に盛り上がったギャラリーにのせられて、玲央たちが何曲か歌い終えたところで、ちょうど時間で、お開きになる事になった。  玲央たちが一言ずつ軽い挨拶を終えて、その後、美奈子さんが、最後の挨拶をして、終了。 「結局終わりまで居ちゃったね。蒼くん、明日もあるのに、ごめんね?」 「それはいいよ」  ……それはって。それはいいけど、じゃあ何がダメかって……。  結局さっきから、蒼くんのムカつきモードは解けてない。   「蒼くん、オレ、後でちゃんと玲央と話すから。 大丈夫だよ、オレ。不思議と、傷ついてたりしてないから」  むしろ蒼くんが玲央にムカついてる方が、困る……。  蒼くんは、オレをじっと見る。  あ。と、何か良い事、思いついた的な顔をしてる。  何??  思った瞬間。  ステージの方から、拍手が聞こえてきて、玲央たちがステージから降りてくる。  玲央がこっちを見てる。  多分さっきのキス、玲央の方が、気にしてくれてる。  だから、ほんとに、蒼くん、怒ってくれなくていいのにな。  立ち上がって、周りの皆と同じように、玲央たちに拍手をしていた。  ステージから降りてきた玲央たちが、周りの人達に別れを告げて。バラバラと、皆が散らばって帰り始める。  大体の人が出口に向かって歩き出した頃、玲央たちが皆、さっきまで座ってたこっちの椅子の方に来ようとして。  お疲れ様と迎えようと待っていた、その時。  ぐい、と蒼くんに腕を引かれた。  え?  突然。  椅子の横の、壁に背を押し付けられて。蒼くんの肘が、壁について。  早い話、壁と、蒼くんの間に、囲われた。 「蒼く」 「黙ってろよ?」 「っ??」  口を、蒼くんの片手で塞がれて、何を考えてるんだか、そこに蒼くんが唇をあててきた。  なんかめちゃくちゃ近くに蒼くんの顔があって、一瞬。というか、しばらく意味が分からなくて、固まるしかない。 「――――……」  なに、してんの、そうくん……?  これじゃ、後ろからは、オレと蒼くんがキス、してるみたいにみえちゃうんじゃ……。って。…………まさか。  オレが、あ、と気付いて瞬きを何回かすると。  ゆっくり蒼くんが離れる。  くす、と笑いながら。 「――――……意味わかったか?」 「……っもう!!」  蒼くんの胸を押して、離れてもらう。  案の定。  玲央だけどころか、勇紀と甲斐と颯也まで、足を止めて、固まってるし。 「ち、ちが……っっ」  なんかもう、恥ずかしくなって。  ぶんぶん首を振ったけれど、なんか、熱くなる頬に、ますます怪しい気がして。 「優月、大丈夫、今すぐばらすから」  ポンポン、と頭を叩かれて。  もう、この人は、ほんとにもう……っ。  見上げると。蒼くんは、ぷ、と笑った。 「ばらしたら、オレ、帰るからな?」 「――――……」 「オレがキスしたと思った時の玲央の気持ち、聞いてみな」 「…………」  多分。  ――――……奏人くんにキスされた玲央にムカついてたから。  オレが、他の人にキスされたら、どう思うか。  実地で、分からせた、というのか。  そういう話なんだと思うけど。  ほんとにもう。 「最後のは、無しだけど――――…… 今日、ありがとう、蒼くん」 「おう。ていうか、最後のに一番ありがとう、だろ? 一回、玲央も、思い知った方が良いと思うぜ?」 「…………っ」 「一応スーツ一式は持ってくからな」 「……うん。分かった。……ありがと、蒼くん」 「ん」  くす、と笑って。蒼くんはオレから離れて。  玲央に近付いていった。  玲央は、さっきオレが振り返った時は、すっごく驚いてたけど。  蒼くんに普通に向かい合った、ように見えた。  蒼くんが何かを玲央に言って。  玲央は、ちょっと黙ってから何か答えた。  それから、また蒼くんが何かを言って、玲央から離れた。 「じゃあな、優月」  片手を振る蒼くんに、うん、と頷くと。  蒼くんは、帰って行った。  ほんとに。蒼くんはやる事が……。  たまに、オレにとっては、未知すぎる……。

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