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第232話◇
「びっくりした、優月。 キスされてんのかと思った」
蒼くんが帰った後、勇紀がすぐに近づいてきて、そう言った。
「オレもかなり驚いた」
「されてないんだよな?」
颯也と甲斐も、そう言ってくる。
「うん。ていうか……オレもびっくりした」
言うと、皆、ふ、と苦笑い。
「面白い人だねー蒼さん。あれ、玲央に反省させるため?」
勇紀が笑いながらそう言う。
そこに、玲央が、近づいてくる。
「あ、玲央、あの――――……」
「今聞いたから、大丈夫」
苦笑いの玲央。
「あ。うん。……ごめんね、びっくり、させて」
「――――……優月が謝んなよ」
玲央がため息をついて。ますます苦笑いで。
オレをまっすぐ見つめてくる。
「――――……悪いんだけど……オレ、もう、行って良い?」
皆と美奈子さんと里沙さんに、玲央が、そう聞くと。
いいよ、しょうがねーな、と皆が口々に言う。
美奈子さんと里沙さんが、何だかそー、と近づいてきた。
「ねえ、優月くん、ひとつだけ」
「はい?」
「今ここに居た彼って――――…… 写真家の、野矢蒼さん?」
「あ、はい。絵も描いてます、けど……」
「優月くん、仲が良かったり……?」
「えっと……兄、みたいな人です」
そうなんだ、と、何だかすごくキラキラしてる、美奈子さんと里沙さん。
「何か……ありますか……??」
「結構芸能人の写真、撮ってるでしょ? すごくファンで」
「あ、そうなんですね」
蒼くんが褒められると、すごく嬉しい。
「ね、優月くん。私たち、彼に、玲央たちの写真をいつか撮ってもらえたらと、ずっと思ってたんだけど……」
「あ。そう、なんですね……いつも忙しそうなんで聞いてみないと分からないんですけど……明日も会うので、聞いてみますね?」
「気に入った人しか撮らないって聞いてて、玲央たちの事まだ知らないだろうし、もっと有名になってからいつか、って思ってたんだけど……もちろん、正式な依頼はちゃんと会社としてするから」
「大丈夫です。ほんっとに、気に入った人しか撮らない人なんで……可能性があるかどうかだけ、さりげなく聞いてみます」
――――……有名とか無名とかじゃなくて、蒼くんが撮りたい人しか、撮らない。でもそのかわり、蒼くんに撮られた人は特別に綺麗に写る。そうやって、蒼くんは、自分の価値を上げてきた、気がする。
でも。……蒼くんが撮った、皆の写真、見たいなあ。
蒼くんの写真、すごく、素敵な場面を切り取るから。
撮ってくれる気になってくれたら、いいなあ。
と、思ってると。
「優月、そろそろ――――……」
玲央が、オレの腕に触れた。
「あ、うん」
玲央を見上げて、頷く。
なんか。
そんな、接触が、嬉しいとか。
どき、と、胸が弾む。とか。
なんか。やっぱり今日、朝から離れてたし。ここに来てからは、視界に居るのにずっと微妙に離れてたから。
隣に居て、触れてくれるのが、すごく、嬉しい、かも……。
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