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第239話◇
「めちゃくちゃ美味しいー」
テーブルに広げた和食を、向かい合って、食べ始めた瞬間。
優月がほわほわと、笑顔になった。
「お味噌汁、美味しい」
優月がものすごく美味そうに食べるので、オレも味噌汁に口を付けた。
「ほんとだ。出汁うまいな」
「ねー……幸せすぎる……」
そんな事を言いながら、こくこくみそ汁を飲んでる。
「和食で良かった?」
「うん、もちろん。ありがとうー」
何の照れもなく、こんな笑顔で言われると。
……めちゃくちゃ可愛い。
「ライブハウス初だったんだろ?」
「うん」
「どうだった?」
「……オレ、全然聞かなかったでしょどんなとこか」
「そうだな」
「テレビとかでたまに見る、地下とかの小さいライブハウスを想像してたの。ていうか、ライブハウスって全部そういうものなんだと思ってたから……だから聞かなかったんだけど」
「あぁ。じゃあ、びっくりした?」
優月はうんうん、と頷いて、苦笑して。
「建物の名前、合ってるけど、ほんとにここなのかなーって、ドキドキしちゃった。入って、またびっくり。オレ、何人位来るのかとか、聞くべきだったよね」
クスクス笑ってる優月に、ふ、と笑ってしまう。
「コンサート会場みたいなとこなんだもん。ほんと、びっくりした」
「そっか。――――……どうだった? バンドの演奏は、練習で見てただろうけど。 オレらの初ライブ」
そう聞いたら。
優月は、箸をおいて、まっすぐオレを見つめた。
「めちゃくちゃ、良かった。 1曲目から泣いちゃう位だったし。練習で聞いてたけど、やっぱり、音とかも全然違うし、玲央たちの本気度も違うし…… カッコよかったよ」
「――――……そっか」
「うん! ありがとう、呼んでくれて」
キラキラした瞳で、嬉しそうに言う優月。
「また玲央たちのステージ見たいなあって……今も、思うよ」
「6月に大学でバンドの大会があるよ。――――……優月、食べていいよ」
クスクス笑いながら、食べるのを促すと。
あ、うん、と箸を持ち直す。
「バンドの大会って?」
「あの大学、バンド活動が有名なの知ってる?」
「うん、いっぱいバンドのサークルがあるのは知ってる」
「審査員投票と、スマホ使った観客投票とで、順位が出てさ。3位までを決めるんだよ」
「へえーそんな大会があるんだね。その観客投票って、オレも入れられるの?」
「ああ」
「面白そう。楽しみだなー」
「去年は2位だったから――――……今年は優勝するって、特に勇紀が張り切ってる」
「玲央たちが負けちゃうんだ……すごい大会なんだね」
「4年の先輩達。僅差だったけど――――…… 完成度が、全然違った。その人達、プロになったよ」
「そうなんだ。なるほど……」
モグモグ食べながら、頷いてる。
優月の好きなとこ。
食べ方、可愛い。
――――……美味しそうに食べるとこも。
ふ、と笑ってしまう。
「なに? 玲央?」
「――――……いや……美味そうに食べるの、かわいーなーと思ってただけ」
一瞬でさっと赤くなって、ぐ、と喉に詰まらせそうな優月に、今度は苦笑い。
「……詰まっちゃうよ」
「分かった、もー言わないから」
クスクス笑いながらそう言うと。
優月は水を飲んでから、ふ、とオレを見つめる。
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