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第252話◇

 優月は、可笑しそうに笑って、オレを見上げた。 「でもオレ断らなかったし。それ言ったら、オレもとんでもないんじゃない?」 「――――……何で、拒否んなかった?」  優月は、んー、と少し唸ってから、オレをじっと見上げる。 「……言ってなかった、ていうか……いつか聞こうかなと思ってたんだけど」 「ん?」 「――――……あの時、玲央が、クロにさ」 「ん」 「……お前もぼっち? みたいな聞き方して、クロを抱き上げてた気がして」 「は……?」 「あ、聞き間違いかもしれないんだけど……近づいた時に、そう聞こえた気がして」 「――――……」  思わず、固まる。  聞き間違いじゃない――――……言ったのは、覚えてる。  咄嗟に出た、自分の言葉に、何言ってんだオレ、と思ったのも、覚えてる。  それ、優月に聞かれてたとか。  ――――……なんか。  無性に恥ずかしいし。 「……れ、お??」  優月の肩に、はー、と沈むと。  優月はクスクス笑い出した。 「……言ってたってこと?」 「――――……」  無言だけど、肯定してるのは伝わってるだろう。  優月は、くす、と笑った。 「……聞き間違いかなーとも思ってたんだけど……だって、どう見ても、ぼっちとかの人じゃないしさ」  その言葉に、はあ、とため息をついて。 「――――……それ言った、オレ。 なんか自然と出て、自分でも、何言ってんだろって思ったやつ……」  そう言うと、優月は、そっか、と呟いた。 「……聞き間違いかなと思ったけど……なんか、玲央の事が、気になって。側に、居たいなって思って……って、よく分かんないよね」 「――――……」 「クロにさ。すごく優しい声で、話しかけてたから。 どんな人がこんなに優しく話しかけるのかなーって思ったのが最初だったし……だから、玲央と話す前から、玲央のこと、優しいなって思ってたんだよね、オレ」 「――――……」 「……キスも初めてだったのに……なんでもいいから側に居てみたいとか。オレも意味、分かんないから……玲央のとんでもない、も、別にそこまでじゃないよ?」  そう言って、ふふ、と優月が笑ってる。 「――――……」  何か、今、色々と、思っても無かった事を。  ――――……しかも、結構大事な事を。  さらっと、言われた気がする。  優月は、大した事だと思って話して無さそうだけど。  そういえば、あの時。  オレと寝てみる? て聞いたオレに、一緒に居たいって、言ったっけ。  ――――……最初から。  ぼっちとか、意味わかんねえこと、言ってたオレの側に居たいと、思ってくれたのかと、思うと。 「優月……」 「ん?」 「――――……オレ、お前が、大事」 「え」 「……すげえ大事」 「――――……」  優月の肩から顔を上げて、まっすぐ見下ろしたら。  優月が、みるみる真っ赤になった。 「――――……真っ赤」  すり、と頬に触れる。 「……ほんと、可愛い」  じ、と見つめて、そう言うと。  優月は赤いまま。ふ、と笑った。 「――――……大事とか…… こんな風に言われたの、初めて」  なんだかゆっくりと言葉を紡がれて。  ――――……ぎゅ、と抱き締めた。 「オレだって、言うの、初めてだし」  そう言ったら。そっと、優月の手が動いて、ぎゅ、としがみつかれた。 「……オレも、玲央が、大事」 「――――……」  ――――……なんか。ものすごく。胸の中があったかいというか。  良く分からない感覚が、広がる。  生きてて、優月に会えて良かった、なんて。 思ってしまった。  さすがに照れくさすぎて、言えなかったけど。  かわりに、すこし強く、抱き締めた。

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