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第253話◇

「ゆづき……」 「うん?」 「シャワー、明日の朝で良い?」 「うん」 「――――……このまま寝るか」 「ん」  ふふ、と笑う優月。 「……優月」 「ん?」 「明日、送るから」 「ん?」 「仕事んとこまで送る」 「え。いいの?」 「――――……で、おまえが働いてる間色々して。昼ご飯、外出れるんだろ? 一緒に食べようぜ?」 「出れるけど……え、でも、何時間もあるよ?」 「いい。 オレは用事済ませとくから」 「あと、帰りも。一緒に帰ろ」 「――――……」  優月がふ、と笑んだ気がして、腕の中の優月を覗き込むと。 「嬉しいけど――――……そんなに待ってたら疲れない?」 「やることは、あるからさ」 「……んー。……帰ってくれてても、いいんだけど」 「嫌なら帰るけど」 「嫌な訳ないじゃん…… いいの??」 「いい」  ――――……まあ確かに、今までの人生で、  やった事のない、事だけど。   「ありがと……あ、でも、ほんとに暇になったら帰ってて?」 「なったらな」 「うん」  優月をオレの肩に乗っけて、軽く抱きしめていたけれど。 「寝辛いか?」 「んー寝辛くはないけど……」 「けど?」  優月が、オレから少し離れて、枕の上に頭をのせた。  そのまま真正面から見つめて、ふ、と微笑んだ。 「玲央が肩痛くなっちゃいそうだから」  オレの手にそっと触れて、軽く握る。  大事に包んでるみたいにオレの手に触れたまま、じっとオレを見つめると。 「……なんかオレさ」 「ん?」 「こんな風に、男の人と寝るとか……考えた事も無くてさ」 「――――……」 「この1週間、ずーと、何でだろうって気持ちもあったんだけどね」  じーと、オレを見つめたまま。 「もうなんか……玲央じゃないと無理って、思う位で」 「――――……」 「人って、1週間で、こんなに価値観変わるんだなーて……」  ぽわぽわとした言葉を、ゆっくりした口調で話す優月が、無性に愛しい。  ――――……つか、価値観の話をするなら。  オレの価値観のが変わった気がするけど。  変わったというか、もう180度変換。みたいなレベル。 「……優月」 「ん?」 「オレのマンションに、来ないか?」 「え」 「――――……引っ越してきてもいいけど。……急ぎすぎ?」 「……ん、と。 嬉しい、けど――――……まだ、早い……???」 「まだ早いって思うなら、とりあえず、生活に必要な物とか、学校のもの全部、オレんちに、入れて? それでしばらく過ごして、オレと暮らして問題ないってお前が思えたら……引っ越してきて」 「――――……」  そう言ったら。しばらくオレを見つめていた優月は。  ふふ、と笑んだ。 「……玲央の家、誰も入った事ないんじゃないの?」 「無いよ」 「――――……良いの、オレ、入るどころじゃなくて、今の話だと、暮らす事になっちゃうみたいだけど……」  オレは、優月の手が触れてない方の手で、優月の頬に触れて、ぷに、と摘まんだ。 「価値観がすげえ変わったのは、オレもだし」 「――――……」  体を起こして、優月にキスして。 「……一緒に、居てほしいんだよ、優月」  そう言ったら。  優月は、じっとオレを見つめて。  それから、ふ、と瞳を緩めて。泣きそうに、笑った。 「はー……もう、玲央」 「――――……」 「……好き過ぎて、困る、んだけど……」  言いながら、オレの首に手をかけて、少しだけ力を入れて引いて、  下から、オレの唇にキスをした。 「……一緒に、居たいから。居るね」 「ん」  頷いて。  見つめあうと。  優月、何でか涙目だし。 「――――……優月」  抱き寄せて。  よしよし、と頭を撫でると。  優月が、クスクスわらった。 「――――……玲央に撫でられるの、好き」 「……オレもお前撫でんの、好き」  クスクス笑いあって。  ふ、と息をつく。 「寝よ、優月」 「ん」 「……おやすみ」  言いながら、額にキスすると。優月はそのまま、すり、とオレの体に頭を寄せてきて。「おやすみなさい」と言った。  ――――……なんかもう。  この先ずっと、こんな風にしながら、優月と眠りたいな……。  なんて思いながら。  すう、と寝息を立て始めた優月の髪を、かなり長いこと、撫でてから。  すごく、穏やかな、眠りについた。    

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