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第255話◇
「……オレ、嫉妬されんの、すげえ嫌いだったんだけど……。最終的には修羅場だと思ってたから」
「……う、ん」
……うーん、大変。玲央……。
「優月が妬くなら可愛いし。妬かせないように気を付けるから、嫌な事あったら言って」
「……ん。分かった」
……今の所は。
なんか、まだふわふわしすぎてて。
玲央のすることに嫌な事とか浮かばないし、妬くとかいうのも、言ったの以外は、そんなうかばないんだけど……。でも、他の人に優しくしちゃヤダみたいな、結構すごいこと言ってしまったような……。あんまり、言わないようにしよ……。
「――――……玲央……」
むぎゅ、と抱き付く。
「ゆっくり、仲良く、しよう?」
言った瞬間、キスされて。すぐ離れて。
お前可愛い、と笑われる。
その笑顔が、いつもの笑顔とはすこし違ってて。
なんか、すごくすごく楽しそうで。
わくわくしてる子供みたいに、見えて。
今までもたまに玲央、可愛いなあと思ってたけど。
余計可愛すぎて。ずるい。
しばらくそのままぎゅー、と抱き締められていたのだけれど。
「――――……早めに出た方が、いいよな?」
「ん。そう、だね。向こうで着替えないとだし」
「じゃ行こ」
「うん」
立ち上がって、上着に袖を通してると、玲央がオレを振り返った。じっと見つめられて、ん??と首を傾げると。
「そういや、スーツ着たまま、したかったなー」
「何を?」
何を言われたのかよく分からず、そう聞いたら、玲央は、ぷ、と笑って、オレの側に来ると、首筋に、す、と手を触れさせた。
「今も脱がせたいけど」
「――――……」
何秒か経って、意味が分かった。
「……っ……」
かああっと、顔が熱くなる。
不意打ち、まだまだ、まったく慣れない。無理。
「あーあ、また真っ赤……」
「…………っ赤くなんない人なんて、居ないと思うんだけど……」
「そうかな?」
クスクス笑われて、ちゅ、とキスされる。
「あー可愛い、優月」
笑いながらオレから離れて、ドアを開けてくれる。
「ほら、行くぞ」
「ん」
振り返ってくれる、優しい笑顔に。
現金だけどすぐに嬉しくなって。そのドアを出て、玲央と並んで歩き始める。
「にしても、昨日と同じ服着るとか、あんま無いよなー」
「うん。無いよね」
急に泊ったから仕方ないけど。
「ちょっと着替えたい」
そんな風に言う玲央に、「オレも」と言ってから。
「あ、オレは違うスーツに着替えるんだった」
「そうだよな。んー。オレ汗くさくない?」
「くさくない」
即答すると、玲央がクッと笑った。
「すげえ即答」
「だってさっきくっついてた時、くさくなかったもん」
「――――……ふーん、そっか.てか、匂いかいだの?」
「か、かいだ、て、いうか……っ」
狼狽えてると、玲央は、面白いなーお前、とか言いながら、クスクス笑ってる。
「……ていうか……玲央くさいとかない気がする」
「はは、何それ」
「いい匂いするもん」
「……香水?」
「んー……つけてない時も同じ気がするから。玲央の匂い、かなあ……?」
「ふーん。なんか。誘ってるのかなーと、思っちまうけど」
「え?? ち、ちがうし」
「香水じゃなくていい匂い、とか言われると、そういう意味に取れる」
「…………っ??」
なんでそーなるんだろう、と焦りながらエレベーターに乗り込む。
隣に立ってた玲央が、不意に、首筋に近寄ってきて。
「え」
と固まったら。
すんすん吸われて。
「な」
ますます固まって、玲央を見上げたら。
「お前もいー匂い」
「っかがないでよ……っ」
「何で。いーじゃんか」
「や、やだよっ」
じたばたしてると、エレベーターが止まって、別の人達が乗り込んできた。
少し奥に詰めて、玲央とくっつくと。
玲央がクックッと笑ってる。
「何笑ってんの?」
「……いや。別に」
むむ。
別にって笑い方じゃないし。
むむむ。
受付のある階に止まって、前から順番に降りていく。それを待ってる僅かな間。
「――――……優月」
「?」
振り仰ぐと、玲央がくす、と笑って。こっそり囁いてくる。
「相手が良い匂いって思うってさー」
「え」
「相性めちゃめちゃ良いって事だよな?」
「……っ知、らないし……っっ」
真っ赤になりながら、降りる人達に続いて、エレベーターから出ると。
「これ言ったら絶対真っ赤になるだろうなーと思ったら、可笑しくて、笑ってた」
「……っ人真っ赤にしてる想像して笑わないで」
もうほんとに。
もう、玲央ってば、もう。
楽しそうで。
……好きだけどさ。
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