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第257話◇

 最後に振り返った優月が可愛くて。  ――――……その姿が消えるまで見送ってから、ふと辺りを見回した。  コーヒー飲めて、長居できそうな所……。  近くのコーヒーショップを見つけて、そこに入った。  ブラックを注文して、スマホを手に取る。  一番何が伝わるか、しばらく考えて。 『急で悪いけど、好きな奴が出来たから、もう今迄みたいには、会えない。  今までありがとうな』  スマホのメッセージ欄に、そう打ってみた。  ごめんな、もおかしいよな……付き合ってた訳じゃないし。  ありがとうでいいよな……?  ――――……これ以上、書く事、あるか?    少し引っかかるのは、大学で関係がある奴だけど。  授業とかでも会うし。  でもまあ、もともとそういう約束での付き合いだったっていうのがあるから、恋人と別れるという程の気負いはいらない奴も居る。全然気にせず、分かったって言いそうな奴も浮かぶし。逆に、何でと言いそうな奴も浮かぶけど――――……。とりあえずこれで送って、あとは返ってきた相手によって、個別対応だな……。  はあ、と息をついて。  ここ半年以内に会ってた相手に向けて、送信した。      で。  2時間。ずっとやり取りした結果。  ――――……昨日のライブに来てた奴らや、SNSを見てる奴は、何となく察知してたらしく、分かった、しょうがないね、のような反応。さよならと書いてくる奴もいれば、またライブ行くよ、と、友達感覚の奴もいた。  ……雪奈が流した片思い説が、結構ファンの間で流れてるらしい。   後で、礼言っとこ……。  なんで? 別に本命居てもいいよ、どうせセフレなんだし、みたいな奴も居たけど。けじめだから、と送ると、大体が分かった、となった。  つか。  もともと、セフレ、なんだよな。  ――――……わざわざ言わなくても良い事なのかもしれない。  わざわざ良いのに、と言う奴もいて、それも分かる。  本当に返信は様々。  やり取りしてる間に、なんかオレ、ほんと何してたんだろうな、なんて、思ってきた。  虚しく感じながらも、あんまり深く考えもせず。  どうせ相手も遊びだし。恋人も居ないんだから自由でいいとか。    ほんと。  考えれば考えるほど、どんよりした気分に襲われてくる。  ――――……優月、何でオレなんか、好きになったかなー。  などと、今まであんまり考えた事の無い事まで、考えてしまった。 ◇ ◇ ◇ ◇  またスマホが震えて、誰かからの返信かと画面を見たら、優月だった。  なんだか、一瞬で緩んだ感情に、苦笑いが浮かんでしまう。 『玲央、今、電話で話せる?』  そんなメッセージが届いて、少し周りを見回す。  ランチをとる客も増えてて騒がしいし、席は一番奥で、電話をしても見えなそうだ。少し位、平気か。そう思って、優月に向けて発信する。 『あ、玲央?』 「お疲れ、優月。どうした?」 『オレね、今から、1人でお昼出るんだけど……』 「あぁ、じゃあそっち行く。今コーヒーショップに居るから会計してすぐ出る。さっき別れたとこで待ってて」 『うん。分かった』  優月の声に、疲れていた心が和んだ。  ……現金だなー、オレ。  会計を済ませて、足早に階段を下りて、通りに出ると、優月がスマホを見ながら、立っているのが見えた。軽く、駆け寄ると。  ぱっ、と優月が笑顔になる。 「――――……」  ダメだ。  ……すげー可愛いし。  何なんだろうなお前。  子供じゃねーんだから、そんな素直に、嬉しそうな顔で笑うとか、  ほんと――――……。  可愛すぎ。  こんな風に人に思った事が無くて、何だか、本当に、自分がおかしくなってるような気がする。  ……何なんだろう、これ。  マジで、どーかしてるか?? 「玲央、おなかすいた? ごめんね、ちょっと忙しかったから、連絡も出来なくて」  ちょっと眉を困ったように寄せて、オレを見上げてる。 「全然平気」    休日の、都内の街。人が多い。まわりに変に思われない程度に、肩に手を回して、近くに引き寄せた。 「……玲央?」  きょとん、として、優月が見上げてくる。  だめだ。どーかしててもなんでも、可愛いと思うのはどうにもできない。  ――――……すげーキスしたいんだけど。  さすがに、優月が赤くなって憤死しそうだから、しないけど。 「……何、食べたい? 優月」 「何でも。1時間で戻らないとだから、近くがいいな」 「昨日は何食べた?」 「昨日は……あそこのファーストフードにしちゃった。目の前にあったから」 「そっか。今オレが行ってた店の近くに洋食屋があったけど行ってみる?」 「うん」  嬉しそうに優月が頷くので、一緒に歩き始めた。 「玲央、何してたの?」  無邪気に聞いてくる優月。 「まあ色々。あとで話すよ」 「? うん、分かった」  全部片付いたら、話そうと思って、そう言うと、優月は不思議そうにしながらも、笑顔で頷く。  ――――……あー。なんか。  こういうとこ、ひたすら可愛いのかも、  ……色々、とか。後でな、とか。  そういう少し隠すような事言うと、大体、「色々って何?」とか「隠すの嫌だ」とか、そういう風に言われた気がする。  ……まあ、今落ち着いて色々考えてみると、信用が無かった、ていう事なのかもしれなくて、そもそも信用ないオレが悪かったのかも知れないとも思うけど。  優月、疑わない、というか。  ……嫌な風に取らない、というか。  ……素直、なんだよな。  多分、オレ、優月のこういうとこも、めちゃくちゃ、好きなんだと、ふと、1人で実感してると。 「なんか玲央、笑ってる」 「え」  見上げた優月が、クスクス笑う。 「笑ってた?オレ」 「え、気づいてないの?」  あは、と楽しそうに笑う優月。   「気づかない内に笑っちゃうって、楽しくていいね」  そんな風に言われると。  ――――……何かますます愛しくなるんだけど。  こっちのこんな気持ち、全く、優月は分かってないと思うけど。

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