256 / 856

第258話◇

 洋食屋の外に出てるメニューを見て、優月が美味しそう、というので店はそこで決定。  ちょうど出て行く人と入れ替わりで入れて、テーブルで向かい合って座った。  目の前の優月を改めて、見つめると。 「……やっぱりスーツ姿だと、違って見えるな?」  いつも大学で見てる姿とは、大分違う気がする。  ほんと?と優月が笑って。 「社会人に見える?」  と聞いてきた。  ん? 社会人……。   「んー……それは見えねーかな」  苦笑いで言うと、優月が、あ、やっぱり?と笑った。 「じゃあオレ、何に見えるの?」 「――――……まあでもスーツ着てるから、知らない奴が見たら、童顔の社会人、とか、思うのかな」 「童顔の……」  ちーん。  優月が固まってる。 「冗談。可愛いっつー意味だし。スーツ、結構似合ってる」  笑いながら言うと、優月はすぐ、うん、と微笑む。 「いらっしゃいませ」  店員の女の子が水とメニューを置いて行った。 「優月何食べる?」  メニューを開いて優月に向けて置くと。 「んーと……パスタにしようかな。ナポリタン、美味しそう」 「じゃ―オレもそれでいいや。飲み物は?」 「アイスオレ」  優月が言うのを聞いて、すぐに店員を呼び、同じのを2つずつ注文した。  水を口に含むと、優月がじー、とオレを見つめてくる。 「なんかさ、玲央さ、一緒に頼もうっていう時さ?」 「うん」 「オレと一緒でいいやって、よく言う気がしない??」 「……そうか?」  首を傾げて見せると、優月は、うーん、と考えてから。 「こないだオムライス食べた時もだし、サンドイッチの時もだし、今日もだし?」 「……そう言われるとそうだな」  全然意識してなかった。  優月はふふ、と笑う。 「どーして?」 「どーしてって……何も考えてなかったけど」 「玲央、選ばないんだもん。メニューをこっちに向けちゃってさ」  そう言われてみればそうかもしれないが。  まあ、反対側からは一応見てるし、ぱっと見、どうしても欲しいものもないし。 「どーしてもっていうのがないと、一緒のもの食べたいってのになるのかもな」 「――――……」 「まあ。考えてねえから後付けだけど」  はは、と笑って、優月の顔を見ると。  なんかちょっと赤い。 「どした??」 「んー……なんか。玲央、可愛いなと思っちゃって。照れる……」 「は?」  全然意味が分からなくて、首を傾げると。  優月は一瞬困った顔をしてから。 「同じもの食べたかったの、とか、付き合ってる女の子が言ってくれたら、すごい可愛く感じると、思わない……?」 「んー…… まあ、思う、かな」 「え、絶対思うでしょ??」  優月が続けて聞いてくるのだけど。  オレが思うのは、そっちじゃなくて。 「何でそこで女の子って言うんだよ。そっちのが気になる」 「え??  ……あ」  そういえばそっか、と優月がオレをじっと見つめる。 「何となく、可愛いを分かってもらいたくて、そしたら女の子って、言っちゃった」 「つか、オレ、女より、お前のが可愛いと思ってるから。覚えとけよな」 「――――……」 「そういう例え話するんなら、女の子じゃなくて、優月の話で――――…… 何、笑ってんだ?」  優月がふ、と笑って、オレをじーと、見つめてくる。 「なんかさ――――……そういうの、言ってくれる玲央がね」 「何だよ?」 「……可愛いって、思うの、オレ」 「つかオレ、可愛くねえし」  そう言い返すけど。  優月はめちゃくちゃ、にこにこ笑ってる。   「――――……」  はー。  ……可愛いのは、オレじゃなくて、優月だし。  ……ほんと。どっか連れ込みたい。  なんて不埒すぎる事をオレが考えてるなんて、知る由もなく。  優月はずーと、ニコニコしてるし。    なんかオレ、優月に触る事ばっか、考えてて。ほんと。  今までの余裕とか、どこ行ったんだっつーの。  無邪気に笑ってる優月にちょっとため息をつきたくなった。

ともだちにシェアしよう!