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第260話◇
食事を終えて、アイスオレを一口飲んでから、優月がオレを見つめた。
「あ、玲央、オレね、考えたんだけど」
「うん?」
「今日は自分の家に帰ろうと思ってて」
……ん?
「今日最後までで遅いし、待っててもらうの、やっぱり悪いし」
「――――……」
「スーツ家に持って帰らなきゃだし、明日の学校の用意、全然してないし」
「――――……」
すっかり家に連れて帰ろうと思っていたので、突然のセリフにちょっと固まる。
まあ、そういえば明日学校だったっけ。
忘れていた訳じゃないんだが。
うっかりしてたというか……浮かれていたというか。
「だから、玲央はさ、玲央の用事が済んだら、オレの事待っててくれなくていいからね?」
にっこり笑いながらそんな風に言われると。
――――……は? 嫌だけど。と言いたくなる。
「優月、それってさ」
「うん?」
「……オレに気を使ってる?」
「ん?」
優月がとても不思議そうな顔をしてる。
……なんか可愛いし。
「優月が家に帰りたいってだけなら、オレ、ついてっても良いんだけど」
「――――……ん?」
オレの言葉に、ついてこれてないらしい。
「ついてきて――――…… どうするの?」
「オレがついてって、明日の用意してから、オレのマンション連れてく」
「――――……」
「優月が面倒ならしょうがないけど」
優月は、しばらく、じーっと、オレを見つめる。
「何だよ?」
「オレね、待ってもらうの、悪いなあと思ったんだけど……」
「悪くない」
「――――……玲央が、オレを待っててくれるのが平気なら」
「平気。……平気ってか、待ってたいし」
即答で応えた後、更に続けてそう言ったら。
優月が少し黙ってたけれど。
んー、と首を傾げながら、オレを見つめた。
「……玲央、面倒じゃないの?」
「何が?」
「夜まで待ってて、オレの家に行って、そこから玲央の家に帰るって……大変じゃない?」
「最後優月と一緒なら全然大変じゃない」
思うまんま答えたら。
優月はきょとんとして。
それから、少し俯いて。両手を頬と首の境あたりに押し当てている。
「優月?」
「――――……なんか……めっちゃくちゃ、照れる」
「ん?」
うーーーーー。と、 俯いて。
俯いたまま、言った。
「……そんなにオレと居たい、のかなって……今、思っちゃった」
「――――……」
そんな事言って、めちゃくちゃ照れてるっぽい。
が。
つか。
――――……それってかなり、今更だけど。
オレこの1週間、ずっと、お前と居たいって言い続けてんのに、まだなんかイマイチ分かってないというか。なんでそこでまた改めて照れるかな?
「ていうか、今更じゃねえ? 一緒に居たいって、ずっと言ってるじゃんか、オレ」
「――――……」
「だから待ってていい?」
「……玲央が大変かなと思ったんだけど。……玲央が大丈夫なら、オレも玲央と居たいから……」
とか自分で言って、更にまた、照れて、頬を冷やしてる。
「……いいの? 待っててもらって」
「当たり前。つーか、待たせろよ。で、優月連れて帰らせて」
「――――……」
優月は、少しだけ唇をきゅ、と噛んで。
うん、と頷いて。
ふわ、と、嬉しそうに笑った。
「ありがと、玲央」
「……ん」
あー……。
……めっちゃくちゃ、可愛がりたい。
……くっそ……。
変な事すんなよという、蒼さんの言葉が、過ぎるけど。
……はー。「変な事」したい。
無邪気に嬉しそうに、ニコニコ笑ってる優月には、ちょっと言えない。
ふ、と深呼吸で、整えた。
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