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第261話◇
「蒼くん、オレが帰ってからお昼行くって言ってたから、ちょっと早く帰れば……接客してなければ蒼くんと話せるよ」
優月がそう言うので、まだ大分戻り時間には早かったけれど、店を出る事にした。
「あ、ごめん、玲央、トイレで歯磨いてくる、待ってて」
「ん」
「接客だからさ」
そんな風に言いながら、優月が鞄を持ってトイレに消えていった。
先に会計を済ませて、少し待つけれど、まだ出てこない。
「連れがトイレなのでちょっとオレも借ります」
「はいどうぞー」
店員に声をかけて、トイレに行くと、優月がうがいをしてる所だった。
「あ、ごめん、玲央、今終わるから」
水を静かに吐き出してから、そう言う。
狭いトイレの中には、優月しか居ないのが一目瞭然。
「ごめんね、待たせて」
「全然。――――……そうじゃなくて」
タオルで口を拭いてる優月の顎を捕らえて、くい、と上げさせる。
ちゅ、とキスすると、びっくりした顔。
笑ってしまう。
「お前、オレにキスされんの、少しは慣れない?」
「……だって、いつも、急なんだもん……」
「もういっそ、いつでもされると思ってたら?」
「……それはちょっと……」
「優月……」
キスして、舌先だけ、少しだけ触れ合わせる。
ぴく、と震えた舌を少し絡めてから、すぐ、離した。
「……っ」
「これで我慢する」
オレがそう言うと、優月はかあっと赤くなって。
何を思ったか、むー、と口を膨らませて。
オレに背を向けて、歯ブラシを洗ってる。
「優月?」
「――――……あの……玲央」
「ん?」
「――――……なんか……あの……」
「ん?」
鞄に歯ブラシをしまってから、優月がオレを振り返って、見上げてくる。
「あのね……した……」
「ん?」
首をかしげて、歯切れの悪い優月を見下ろしていると。
優月は、ふ、と視線を落として、恥ずかしそうに。
「こういう所で、舌、入れないで……」
と、優月が言う。
「ぞく、って、して――――…… くすぐったく、なっちゃうから……」
「――――……」
優月を引いて、背をドアに押し付ける。
こちら側に開くドアだから、向こうから押されても最初開かない。
すぐ出ればいいか――――……。
「優月さ……煽ってんなら、天才」
「…………っ」
違うから!と目を剥いてる優月に、笑ってしまいながら唇を塞ぐと、優月が、ぎゅうっと瞳を閉じる。
舌を入れて、深く絡めて。
「ん、ン……っ」
すぐに、甘い、声が、漏れる。
何となく、目を閉じずに、優月を見てると。
ぎゅっとつむってる睫毛が、震えてる。
は。――――……可愛い。
「……ふっ……は――――……ん」
ゆっくり、キスを離す。
……赤くなって、涙が滲む瞳が、ゆっくり開く。
ああ。もう。
……ほんとに、どんだけ可愛いんだろ。
「だから、玲央……っもう」
怒ってる優月に、ぷ、と笑いながら。
「出よっか、行ける?」
「……いける、けど……」
むむむむーーーー。
……あ、怒ってる。
ものすごい、ジットリとした瞳で、オレを見上げてくる。
怒ってても、可愛いって、なんだろう。
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