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第262話◇

「玲央」 「……ん?」 「もう、絶対キスしちゃダメ」  む、と膨れたまま、まっすぐオレを見つめて、優月が言う。 「外で、キスしないで」 「――――……」  優月にしては、ちょっと強い口調で言ってから、視線を外して、俯いてしまう。  あ。  ……結構マジで怒ってる? 「……優月?」  視線を合わせようと思って、軽く二の腕に触れたけれど、ぷいと顔を背けられる。  ……その仕草も、可愛いとか思ってしまうオレは、自分でもどうかと思うんだが。それよりも。  珍しく……怒ってる、かも? 「――――……玲央のキスさ」  少し沈黙した後、優月が発した言葉は、さっきよりはもう柔らかい口調になっていて。どちらかというと、怒ってるというよりは、困ってる感じになってしまってるので、余計に胸に来るものがある。 「オレ、ダメなんだってば、ほんとに……」  優月が手を握って、口元に当てて、俯く。 「……ほんとに、オレ、玲央とキスしてるとさ」 「ん……」 「……何も考えられなくなっちゃうし」 「うん……」 「だから、外で、キスしないで?」  口元押さえたまま、む、と膨れて、そのまま上目遣いに見つめられる。 「ん。わかった。 ……ごめん」 「えっ」  ごめん、と言ったら、優月が、ものすごくびっくりした顔をして、オレを見上げた。 「えって、何?」 「……玲央、ごめんて言った?」 「……言った」  優月が、じー、とオレを見て。 「……玲央、謝るんだね」  そんな風な言葉と共に、もはや全然普通の顔になって、ふ、と笑う優月。  手が伸びてきて、そっとオレの頬に触れて、ぷに、と摘まんだ。 「……オレ、本気で怒ってる訳じゃないんだけど……」 「――――……」 「……玲央とキスするのが、嫌なんじゃないよ。でも、蒼くんには絶対バレちゃいそうだから、今だけは、やだったんだよ、オレ」 「……ああ。そう、だな」  ……確かに。バレそう。 「分かってくれた……?」  ん、と、頷いたオレに、優月がまた、ふ、と笑って。  不意に近づいてきたと思ったら、ちゅ、と頬にキスしてきた。  ――――……しかも、少し、長く触れてる。  キスすんなって言っといて、何でするんだ。  ゆっくり離れた優月を見つめると。  「これで終わり。もうキスしちゃだめだからね。我慢、して」 「――――……」  べ、と舌を出されて、優月がクスクス笑いながら、トイレのドアを開けて外に出た。  ――――……我慢して、だって。 「……っ」  一瞬で熱が上がった気がする。  ――――……すぐ優月についていけず、立ち尽くす。  ……なんか。  …………これは。完敗かも。  分かってるけど、オレ、やっぱり優月がすげー好きみたい。    ……最後のすげー可愛いし。  めちゃくちゃキスしたくさせられたまま、逃げられるとか。  しかもあんな楽しそうな顔して。  こんなとこで我慢できなくてキスしたり。  キスやだって言われて 謝ったり。  煽られて逃げられたり。  ……何してんだオレ。  はあ、とため息。 「……玲央ー?」  ついてこないオレに、優月がすぐ戻って来て、ドアから顔をのぞかせる。  「早く行こ??」  視線が合うと、ふわ、と微笑む。  ああもう、ほんとに。  ……可愛いし。 「――――……ん。行く」  言うと。 「うん」  優月がくす、と笑って頷いた。

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