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第274話◇

【side*優月】  玲央が。  ――――……なんか、ちょっと困ってる?  何か、すごく考えてるっぽい……??  なんだろう。  よく分かんないけど。  オレに、ウザイ?とか聞いてきちゃうとか。  ウザイ訳ないのに。  オレ、ウザイっていう言葉を人に使うの嫌で。  もし言われたら……結構傷つくかなって思うし。  ……玲央をウザイなんて死んでも言わないと思ってしまう。  玲央が何を考えてるのか、ちょっと良く分からなくて、もどかしい気がするけど、言ってくれなそうな感じがしたので、とりあえず、離れた。  スーツから私服に着替えて、明日のスーツ一着と、適当に服を持った。  服は着れるの貸してもいいし、と玲央が言うので、とりあえず、授業の用意だけちゃんとして、リュックに詰め込んで。あとは、絵を描く道具。  用意を終えて。  ずっと密かに気になっていた冷蔵庫に向かう。 「ごめんね、玲央、後少しだけ待ってて」 「ん」 「マンションの下に、ゴミ出しながら、行くね」 「ああ。――――……食材、ダメになってる?」 「ん、賞味期限切れてるものがあるかな。野菜も、しなしなに……」  そうだよね、オレ、ここに帰ってきてないもんね。  ここでご飯、いつから作ってないんだっけ……。  あ、そっか。月曜の朝が最後だ。 「マンションのごみの所に捨てながら行くね」 「ああ。悪い。ずーっと引き留めてたから」  玲央の言葉に、ううん、と、首を振った。 「そんなの、オレだって、居たかったんだし」  とりあえず、ヤバそうなのだけごみの処理をして、袋に入れる。 「行く? 優月」 「うん」 「荷物持つよ」 「え。……あ、じゃあ、服、持ってくれる?」 「いいよ」  一つ荷物をお願いしして、2人でオレのマンションの部屋を後にした。  ごみ収集の建物に、ごみを分けて置いてから、待ってる玲央の所に戻った。 「ごめんね、お待たせ」 「ん。行こう、オレんち」  ふ、と笑まれて、見下ろされて、頷いて隣に並んで歩き始める。 「ね、玲央」 「ん?」 「初めて、他人が入るんでしょ??」 「そうだよ」 「良いの? オレが初で」 「良いから誘ってるんだろ」  迷いなく答えてくれるから、少しほっとする。 「――――……でもなんか、ちょっと緊張する」 「緊張?」 「うん。緊張」 「なんで?」  玲央はくす、と笑いながら、オレを見つめてくる。 「玲央のプライベートな所に、入れてもらうの、緊張する」  そう言ったら。  玲央は、ふ、と瞳を緩めて、ぽん、とオレの頭を撫でた。 「しなくて良いよ。オレの方が緊張するし」 「え?? なんで?」 「んー。あっちのマンションとは違って、全部中身自分で選んだ部屋だからさ。優月が居心地良いといいなって思うから」 「――――……」  オレが、居心地、いいかどうかで緊張するって。  そんな風に言ってくれるの。  なんか。嬉しい。  オレのマンションから、学校の駅まで歩いて、そこから学校の前を通って、反対側にあるマンションらしくて。日曜の夜に大学の前を歩いてる人、ほとんどいない。  いつも人がたくさんいる大学前の道が、静かで。 「なんかちょっとお化け屋敷的な……怖いね」  思うままにそう言ったら、玲央が、ぷ、と笑った。 「お化け屋敷、無理なの?」 「……無理」  はは、と笑われる。  なんかそのまんま無理そうだな、とか言われて。その後。 「今度一緒に行くか?」  うわー。楽しそうだなー、玲央……。  あまりに楽しそうで、苦笑してしまうけれど。 「玲央が居てくれるなら、入って……みようかなあ。一回も、入った事ないから」  そう言ったら、玲央が、じーっとオレを見て。  クスクス笑った。 「行きたいなら行くけど」 「んー……考えとく」  見つめ合いながら、笑ってしまう。 「――――……デートすんのはいいな、遊園地。優月と」   玲央の言葉に、ぱ、と玲央を見上げる。 「行こう、今度。行きたい」 「はは。 いーよ。どこでも」 「……お化け屋敷は考えとくね」 「ん」  玲央が面白そうに笑ってる。  わあ、すごい楽しみ。  うれしーな。  急に飛び込んできたワクワクの誘いに、喜んでいると。 「優月」  ぱ、と手が差し出される。 「え?」 「手、つなご」 「……うん」  胸、ドキドキする。  手を伸ばすと、ぐ、と繋がれて。玲央の近くに引かれる。  なんか。  手つなぐって。  すごい幸せかも。 「お化け屋敷苦手とか、優月っぽいなー」 「玲央は、全然平気なの?」 「んー……どうだろ。ガキん時以来入った事ねえ」 「なら、入ったら玲央ももしかして泣いちゃうかも?」 「……つか、泣くの? お前」  ちょっと沈黙、なんだろうと思ったら、そんな風に突っ込まれて、クスクス笑われる。あ、また余計な事言った。 「……いや。泣くかは分かんないけど……」 「――――……泣くとこ見たいなー。入ろーなあ、優月」  冗談なのか本気なのか、とにかくすごく楽しそうに言って、玲央が手をぎゅ、と握ってくる。 「……そんな事言って、玲央が泣いちゃうかもしれないしさ?」 「泣いたら、慰めて」 「え」  意外な返答に、ぱと、玲央を見上げると。  楽しくてたまらない、みたいな顔して、オレを見下ろしてくる。 「……いーよ。慰めたげる」  笑顔で頷くと。  ちゅ、と頬にキスされる。 「誰も居ないからだいじょーぶ」  確かめる前にそう言われて、玲央を見つめると、玲央は、クスクス笑う。  なんか。  玲央と話してるの楽しくて。  もうしばらく着かなくてもいいなあなんて、思ってたけど。  学校を通り過ぎたら割とすぐ着いた。  ――――……これまたなんか。   ものすごいオシャレな外観のマンションに。  うわー……と見上げていると、優月いこ、と手を引かれた。

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