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第276話◇

 キスされて、最初は、焦った。  涙が溢れてて。なんか、玲央の口に、入っちゃいそうで。 「待っ……」  一旦離れようとして、俯こうとしたけど、すぐに顎を捕らえられて、口づけられた。  よろけて、後ろの壁に背を付いたら、壁に囲われるみたいになって、そのまま深く、口づけられる。  舌が絡んできて、いつも通り、霞がかかるみたいに、ぼうっとしてきて。  もう涙は、完全に止まった。  ただ、キスが熱くて、息が熱くて。  なんかもういつも――――……熱くて、舌、溶けそうて、思う。 「ん――――……っ……はぁ……ン」  息、できないと思ったら、少し外されて、呼吸したと同時に塞がれる。 「…………っんン……ふ……」  もう、キス、だけなのに。  おかしく、なりそう。  好きな気持ちが、溢れそうになる。 「――――……す、き…… れお……」  玲央の胸元の服、縋るように握り締めながらそう言ったら。  少しだけ唇が離れて。  そっと瞳を開けたら、目の前で玲央がオレを見つめてて。  めちゃくちゃ照れくさそうに笑った。  ずき、と痛いくらい、胸が、ときめいて。  ……ときめくとか。ほんとに玲央に会うまで、こんな強い感情、知らなかったけど。  絶対これがときめくって感情なんだろうなとしか思えない、胸の痛み。  玲央の笑顔見てると、何だか、顔が勝手に熱くなる。 「――――……もっ回、言って?」  もう。  声が。  甘すぎて。  いつもも、すごくイイ声で、大好き、なんだけど。  囁く時は、ほんとに、声が濡れてるみたいに、聞こえる。  声が、甘くて。  超至近距離で囁かれると、もう、なんか。力が、入らなくなる。 「――――……好き、玲央……」  促されるまま、そう言ったら、ふ、と玲央が笑った。 「優月、あのな――――…… オレ、今日、全部、連絡した」 「……れんらく……??」 「付き合いあった奴、終わりにしてもらった」 「――――……」  頭がちゃんと、働かない。 「――――……あ」 「ん?」 「もしかして、セフレの、皆さん……??」  そう言ったら、玲央が一瞬変な顔をして。それからくっと笑った。 「何だよ、その言い方――――…… そう。 その皆さん」 「――――……え、今日?」 「そう。優月が働いてる間。連絡とった」 「――――……用事って……」 「うん。それ。結構やりとり時間かかったけど……」 「……そう、なんだ……」  やることあるしって言ってたの、それだったんだ……。  そっか。   「だから、今もう、セフレは居ないよ。この先も、その関係は、もう持たない」  玲央は、はっきりそう言って、オレの両頬をぐい、と挟んで、まっすぐに視線を合わせてきた。 「優月。――――……だらだら何回もは言わない。一度、ちゃんと言うから。聞いてて?」 「……うん」  まっすぐで、キラキラ綺麗な瞳に、吸い込まれそうになりながら、頷くと。  触れそうなほど近くで、見つめ合いながら、玲央は言った。 「だらしない事してて、ごめん。お前に会う前だったけど……色んな、嫌な思いさせて、本当に、ごめん」 「――――……」 「……まだ会って間も無いし、オレを、全部信じてっていうのは無理だって分かってる」 「――――……」 「でも、これからずっと、信じてもらえるように、するから」  まっすぐじっと、見つめ返していると。  玲央が、ふ、と優しく瞳を緩めて笑った。 「オレ、初めて、こんなに誰かと一緒に居たいって思ってる」 「――――……」  一度、息を止めて。  少し緊張した顔で、玲央がオレを見つめた。 「優月、オレと恋人として付き合って。それで、オレとずっと一緒に居て?」  まっすぐ。玲央を、見つめ返してたけど。  一瞬も、外されなかった、視線。  ――――……なんか、もう……。    また涙が滲んでくる。  一度拭ってから。玲央を再度、見上げた。 「……オレ、玲央のこと、だらしないなんて思ってないよ。めちゃくちゃ、モテる人だなあって……そりゃそうだろうなーて、思うけど……オレの目の前に居てくれた玲央の事は、ずっと、ちゃんと、信じてたし、これからも信じる」  言ってると、涙が、浮かんできて、困る。  でも、全部言いたくて、まっすぐ見上げていると。  玲央の手が、涙をぬぐってくれる。 「……だから……玲央が、オレで良いなら」 「良いに決まってる」  かぶせるようにそう言った玲央に、一度口を噤んで。  それから――――……。  嬉しく、なって。 「……じゃあ、今、から」 「――――……」 「オレ達、恋人、で、いいの……?」  言った瞬間、ぎゅ、と抱き締められて。 「当たり前。――――……ありがと、優月」  包み込むように抱き締められたまま、言われて。  オレは、また感極まって、泣いちゃったけど。  だけど嬉しすぎて、笑いながら。  だからもう泣き笑いみたいな、変な感じだったけど。  涙が止まるまで、玲央がずっと抱き締めてくれていて。  ――――……めちゃくちゃ、幸せな、時間だった。

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