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第285話◇

【side*玲央】  髪を乾かしてあげていると。優月がキスしてきた。 「――」  乾かされてる時の、優月が気持ちよさそうにしてるのが可愛すぎて。  鏡越しじゃなくて直で見たいから、よく、真正面で向かい合って、ドライヤーを当ててるのだけれど。  なんか、今日は、背伸びして、キスしてきた。  つか、マジで可愛い。  優月が学校じゃなかったら。襲うのに。……とか、朝から不埒すぎる事を考えながら。 「ドライヤー途中になるよ?」    そう言ったら、優月はふふ、と笑って、また少し俯いた。  可愛い。  優月の髪の毛が、段々フワフワ柔らかくなっていくのが、愛しくて。  こんな風に思うの、本当に初めてだよな。  ……というか、人にドライヤーかけるとか。  あんま考えた事もないし。しかもこんなに丁寧に、自分にもかけないかも。   「ん、終わり」  柔らかくなった髪をふわふわと撫でて。  それから、優月の頬を挟んで引き寄せて、唇にキスした。  触れるだけ。ゆっくりと。  少し長く触れて、ゆっくり離すと、それに合わせて、優月の瞳がゆっくりと開く。 「――玲央……」  ふわふわと、にっこり笑う優月に。  他人にたまに「尊い」とか言われて、意味が分からなかったけど。  ――あぁ、なんかこういう感覚のことなのかな、なんて思いながら、また頬にキスする。  大事で、愛しくて、このまま、大切にしたい。  ――とか、そういうことか? 「食べようぜ。――あ、ちょっと待って」 「うん」  バスタオルとか全部、洗濯機に突っ込んで回してから、優月の手を引きながら振り返る。 「おいで」 「うん」  素直に、笑顔でオレを見上げて、ついてくる。  優月がシャワーを出てる間に用意しておいたので、そのまま座らせて、水だけコップに入れて渡した。 「ありがと」 「ん」  優月の向かいに座って、いただきます、と合わせる。 「優月、朝って、ごはん? パン?」 「どっちも。日によって違うよ」 「ずっとカフェだったから、パンだったよな。明日ご飯にする?」 「うん、いーよ」  サンドイッチを食べながら、優月がクスクス笑う。 「玲央、料理習ったって言ってたもんね」 「習わされた」  そう言うと、優月はぷ、と笑う。 「教えてもらいたいなー」 「何を教わりたい?」 「だし巻き卵」 「あぁ。好き?」 「うん、好き」 「優月卵好きだよな」 「大好き」 「オムライスに卵サンドに、出し巻き卵って」  クスクス笑ってしまうと、優月も、そういえば卵の話ばっかりしてるね、と笑う。 「意識してなかった」  あはは、と笑いながら、優月がオレを見つめる。 「玲央は? 何が好きなの??」 「――んー。なんだろうな」 「うんうん」  ワクワクした顔してる。  優月みたいに、これが好き、とか。 そういえば、あんま、ないな。  別になんでも食えるし。こだわりがねえのかも。 「オムライス」 「ん?」 「卵サンド」 「??」 「出し巻きも」 「オレの好きな物でしょ?」 「優月と食べれば、なんでも好きだと思う」 「――」 「正直、そこまでこれってもの、今まで無かったかも。食べれればなんでも別に」 「……」 「――でもなんか、お前が嬉しそうに食べてたオムライス美味かったし。金曜卵サンド食べたのに、土曜もなんかついつい食べちゃったしなー。そう思うと、優月経由で好きになるかも」  何だか、良くわかんねえこと言ってんな、オレ。  と思いながら、でも、思いつくまま言ってたら。  なんとも言えない顔でオレを見てた優月が。  急に、「ちょっとごめんね」と言って、立ち上がると。  とことこオレの側にやって来て。  じーと、見下ろされて、ん?と微笑んで見せると。 「――玲央」  むぎゅ、と抱き締められた。 「――なんか、もう、大好きなんだけど……どうしたら……」  どうしたらって、何だ。  クスクス笑ってしまう。  優月を好きになって。  何も思わず普通にしか見てなかったものとかを。  ――好きになってくとか。  そういうのも、なんか、いいかも。  なんて思いながら、優月の顔を見たら。  なんでか涙目で。 「え。……何で泣いてンの?」 「分かんない。 ……すっごい好き、て思ってたら」  うー、とか言いながら、抱き付いてくる。  くすくす笑ってしまいながら、抱き締め返して。  ちゅ、とキスした。  

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