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第286話◇

 しばらく優月を抱き締めて。  落ち着いた優月が座り直して、食事を進める。  そうしながら、気になっていた事を話す事にした。 「なあ、優月」 「ん?」  コーヒーを飲みながら、優月がオレをまっすぐ見つめる。 「オレはさ、女も男もいけるって、隠してなかったし。お前も知ってたろ?」 「うん。聞いた事はあった。……オレが聞いた事あるって事は、皆知ってる気がする」  クスクス笑いながら優月が言う。 「あんまりそういう噂、オレ、耳に入らなくて。 なんかよく、この話知らないのか?とかよく言われるから……」 「なんか優月っぽいな……」 「でも、オレ、玲央の事は全然知らないのに、その噂は知ってたから……」  まあ。有名な話になってるみたいだからな。セフレの噂とともに。  苦笑いが浮かんでしまうけれど。 「――――……オレは、今更だからいいんだけど。優月はどうしたい?」 「あ。……玲央とオレのこと、周りに話すかどうかって、こと?」 「ん。まあ、バンドの皆と、お前の幼馴染位は話すだろ?」 「うん。話す」 「なんならオレは誰にでも言えるんだけど。そこ以外の奴には、どうする?」 「んー……玲央が関係あった人達、大学にも居るんだよね?」 「ん」 「……その人達にも伝わってもいいの?」 「大学に居る奴らは特にちゃんと話し終えた。好きな奴がいるって。そいつと付き合うと思うって」 「――――……」  優月は、ん、と小さく頷いて、そのまま瞬きを繰り返してる。 「……玲央がさ、そこらへん、やりずらいとか、無いなら」 「――――……」 「オレも、隠さないよ」 「――――……変な目で見られるかもよ?」  言ったオレに、優月は、ぱ、と顔を上げて。  オレを見つめると、――――……意外な位、楽しそうに。ふふ、と笑った。 「だって、オレ、これから玲央と、大学で一緒に居る、でしょ?」 「居る」  即答すると、優月が、またにっこり笑う。 「じゃあもう、隠したってしょうがないし」 「――――……」 「変な目で見られるのが嫌なら、もともと、玲央のとこに来てないよ」  その言葉に、分かった、とオレは頷いた。 「じゃあ聞かれたら、答えるし。変に隠さなくていいってことでいいか?」 「うん、良いよ。 オレも聞かれたら、言っちゃうね」 「――――……それで、もしさ」 「ん?」 「もし嫌な事あったら、すぐ、言えよ」  そう言うと、優月はきょとんとして、嫌なこと……と、呟いてから、口を開いた。 「……男同士って事で受け入れられなくて、少し微妙になる位の事は……一応、覚悟してるよ?」 「――――……」 「色々、考えたよ。この1週間で、なんか――――……今まで考えなかったこと、すごくいっぱい考えた。――――…… 多少の事なら、想定の範囲内、かなーて思ってる」 「――――……分かった」  なんだかな。  …………ほんと、優月の言葉は、まっすぐで。   「……でも、言えよな。 一緒に消化してこ」 「うん。分かった」  嬉しそうに笑う優月。 「でもオレ、玲央と居れるなら、多少の微妙なのなんて、平気だからさ。心配しないで」  ほんと。  優月。    まっすぐで。  意外と、強くて。  でもなんか、ふんわり、優しい。  ――――…… ほんと、この感じ、好きだな、オレ。  オレとの関係を隠さなくて良いと、まっすぐ言ってくれる優月が嬉しいし。  なんか愛しくて、どうしようもない。

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