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第289話◇

「ごちそうさま」  優月が手を合わせた。2人で立ち上がって、片付け始める。 「玲央、オレ今日スーツ持ってって、そのまま蒼くんのとこ行ってくるね」 「ん。仕事終わって電車乗る時連絡して。駅まで行くから」 「え、でも、ここのジム行くんじゃないの? オレ、1人でここ、来れるよ」 「迎え行くから、飯、駅の付近で食べようぜ。遅くなるだろうし」 「……ん、分かった。ありがと」  片付けが終わり、オレは引き出しから、鍵を取り出した。 「優月、これ」 「うん?」 「鍵。渡しておく」 「え、鍵…… いいの?」  遠慮がちに手を出した優月の手に、カードキーを渡した。 「良くなきゃ出さねえし」 「ありがと」 「財布に入れときな。使い方今日の帰り教えるから」 「うん。ありがとう」  嬉しそうに握り締めている優月。  微笑みながら時計を見ると、結構もう良い時間だった。 「優月、そろそろ出ないとだよな」 「うん。あ、玲央は1限ないでしょ? オレ、1人で行くよ」 「一緒に行く。曲作ってればいいし」  じっと見つめてから、優月、にっこり笑う。 「オレ、結構1限の授業取りたいの多くて、途中があいてたりするんだけど…… だから、いつも1限一緒に来てくれなくて、いいよ?」  言った優月の腕を引いて、思わず抱き締めてしまった。 「……っと。玲央?」 「行く」 「――――……ん……」  ちゅ、と口づけて、ぽんぽんと頭を撫でると。  優月が、めっちゃくちゃ嬉しそうに笑った。 「――――……」  どき、と胸が音を立てて。  少し驚く。  人の笑顔見て、ドキドキするとか。  ――――……何だこれ。 ……恥ずいな。   「じゃあ、行こ、玲央」 「ん」  2人で初めてこの家で過ごして、初めて一緒に、出発。  一緒に誰かとここから出かける事自体が、そもそも初だし。  靴を履いて、玄関から出て、嬉しそうに優月が振り返った。 「玲央また皆に、早過ぎって驚かれちゃうよ?」 「言わせとけよ」  クスクス笑って返すと、そうだね、と見上げてくる。  ――――……今日、勇紀達には話そう。  まあ。ほぼ付き合ってると思ってるんだろうけど。    ◇ ◇ ◇ ◇ 「ええええええ!! セフレ全部切ったの? え昨日?? で、もう、付き合ったの?」  あれ。  ほぼつきあってると思ってると思ってたのに。  2限が始まる前に現れた勇紀に叫ばれた。――――……うるさい。  部室だから他に誰も居ないからいいけど。 「もう付き合ってるようなもんだったろ?」 「いやもう、大好きなのは分かってたし、その内なるんだと思ってたけど、昨日全部連絡したんでしょ? それで、速攻告白したの?」 「告白……好きっつーのは分かってたし。 恋人になってもらった」 「えええええ、すご、早や、玲央!」  勇紀がスマホを取り出して、何だかうるさく言いながら、何か打ってる。  5分後、颯也と甲斐が入って来た。 「緊急事態だから、いますぐ来いってなんだよ」 「オレらもう2限の教室向かってたっつーの」  颯也と甲斐が、勇紀を見て、それから、オレにも視線を流してくる。 「セフレ全部連絡して終わらせて、優月と付き合ったんだって!」  大興奮状態の勇紀。  甲斐も一気にテンション上がったらしく、パッと笑顔になった。 「へえ。行動早ぇな。いつ連絡したの? 結構人数居たんだろ」 「昨日。優月が仕事中ずっとやってた」 「はは、ずっとって。どんだけだよ」 「るせーよ」  苦笑いで返すと、こっちを面白そうに見ている颯也と目が合った。 「――――……優月は? 喜んでる?」  颯也のテンションは変わらない。  勇紀と甲斐もこんな風に聞くのかと思ったけれど。 「そうだよ、優月! めっちゃ会いたい―! おめでとうって言いたいー」 「お前、外で優月見かけても叫ぶなよ」 「叫ばないよ……あ、いや、叫ぶかも……」 「やめろよ」  一言制すと、颯也がもう一度言った。 「で? 優月は?」 「ああ。優月は――――……ん、まあ、笑ってるかな」 「ふーん」  そこで颯也が急にクスクス笑い出した。 「つか、めちゃくちゃ笑ってンの、お前だけどなー」  その颯也の言葉に、ノリノリで乗ってくる勇紀と甲斐。 「――――……」  やっぱり颯也も一緒だった……。  あー。マジでうるさいぞ。  朝からテンションが高すぎる。 「……とりあえず2限いかねーと、始まる」  オレが立ちあがると、皆、可笑しそうに笑いながら頷いて、鞄を持ち直す。 「今夜皆暇? 飯行こうよ、優月呼んで」  勇紀の声に、「今日も優月、仕事なんだって」と答えると、えええー!とまた叫ぶ。 「やだよ、話したいしー!」 「明日は絵の教室だし、今日明日無理」 「えええーー!!」  余程嬉しいのか、勇紀のテンションに、付いていけない。  優月に最初に会わせるのは、オレの前でってことにしよう。  隠さないとは言ったけど、勇紀と優月が会った瞬間に、  半径数百メートルに知れ渡りそうだ。

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