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第290話◇

 朝一緒に学校まで歩いてくる間に、優月のスマホに村澤から連絡が入った。 「玲央、オレ今日、智也と美咲とお昼食べていい?」 「ああ。いいよ」 「話してくるね」  そう言って、笑ってたっけ。  バンドのメンバー3人と別れて2限の教室に向かいながら、朝の優月を思い浮かべる。  そっか。昼別々ってことは、夜まで優月と会えねーのか。 「――――……」  なんか少し、寂しい。とか。  素直に思うのはそれだな……。  何だか優月と居ると、「素直」がしみこんできそうだな。  ……あいつみたいに、それを外に出すのは、まだ出来そうにないけど。  でも優月にはちょっと出せるかもな。  何言っても、受け止めてくれる気がするし。 「おーす、玲央!」  そんな声に、振り返ると、稔だった。 「どうだったー? ライブ」 「んー。まあ、大成功かな」 「大成功じゃなかったこと、ねーんだろ?」  稔はそんな風に言って、はは、と笑う。 「今度は行くから、早めに教えて」 「次のライブは学校だから」 「ああ、あれか。去年もやってたよな」 「そ。負けたけどな」  どうしてもこの話だと苦笑が浮かんでしまう。  稔も、ああ、と頷いた。 「あー、そうだっけなー。まあでも玲央が負けるとことか、めったに見ねえから、あれはあれで、貴重でよかったけどなあ?」 「なんだそれ」  やれやれ、と笑っていると。 「そういや、今朝は優月と一緒じゃねえの? 優しい月の子ー」 「なんだそれ、最後の」  楽しそうに笑う稔に、呆れてると。 「お前が言ったんじゃん、優しい月って書く、ピッタリだって」 「言ったけど、優しい月の子って……――――……」  ――――……まあ、いっか。  別にそこまでイメージ違う訳じゃねえな。  そこで言葉を切ると、稔が、うわー、お前……と、ちょっと半笑いで見つめてくる。 「まあいっかって、思っただろ。優しい月の子でもいいなとか。可愛いなとか思った?」 「……まあ、思った」 「うっわーきもーー。玲央がキモイー」 「つか、キモイとか、本人が居るとこで言ってんじゃねーよ」 「いやいや、陰で言ったら、こんなの完全に悪口になっちゃうじゃんか。直で言うからいーんだよ」 「良くねえし」  はー、とため息を付きながら、階段を上り、廊下を歩く。 「優月、ライブ見に来たんだろ? 踏みつぶされてなかった? 村澤が心配してたろ」  クスクス笑う稔に、苦笑い。 「バルコニー席に行かせたから、平気だった」 「あ、やっぱり踏み潰されそうな感じなんだ、優月って」 「……そうだな、そうかも。踏み潰されないにしても、なんか大変そうな気がする」  思い浮かべて、くす、と笑ってしまう。  すると、稔が隣で、またまた、うわー、という顔でオレを見てくる。 「何なんだよ、さっきから」 「だって、今また、かわいーよなーとか、思ってたろ?」 「……まあ、そんな感じで可愛いからなあとは、確かに思ったけど」 「だってそーいう顔してたもん。 うわー、何なのオマエ、キャラ変わりすぎ」  ぞわぞわするー、と大げさに震える稔。  「お前うるさい」とため息を付いた。

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