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第291話◇

「だってお前、つい最近までセフレが一番楽とか言ってたじゃん」 「――――……」 「本気になられるの、面倒とか言ってたじゃん」 「――――……まあ」 「優月みたいな奴こそ、本気で相手しないとダメなタイプなんじゃねえの?」 「……まあ」 「面倒って言ってたの、どこ行った?」  昔からオレを知ってる奴らの言葉は、ほんと、今までのオレを正確に表してるよなーと、苦笑い。今までどう思われてようと、別に気にしてなかったんだけど。 「――――……優月だけは、面倒だと思わなかったんだよ。最初から」 「……何で??」 「ん?」 「だから何で最初から優月は良かったの?」 「――――……何でって言われてもな……」  すぐに理由は出てこなくて、思わず首を傾げる。 「だってさぁ、お前の事好きな子の中にも、優しそうな子とか、可愛い子とかだって居たのにさ。その子達には思わなくて。何で、優月は良かったの?」  教室に入りながら、そんな言葉にしばし黙る。  オレ達のすぐ後に教授も入ってきた。  すると稔は、「授業終わるまでに考えといて」と言って笑う。  黙ったまま一応頷いておいて、席に着いた。    最初から何で良かったか。  会った時の優月を、ふ、と思い浮かべた瞬間。  何だか微笑んでしまった。 「……稔」 「んー?」 「理屈、無えかも。――――……思い浮かべるだけで、なんか、緩むんだよな」 「――――……」  言った瞬間。  稔が、きょとん顔で固まって、そのまま、口を開こうとしつつも、また黙って、無言。 「――――……なンだよ? 何か言えば?」  言うと。はー、と深い息をつかれる。 「……だから、オレ、勇紀達と飯に行きたいんだってば」  クッと笑いながら、稔が言う。 「あ、優月も貸してな?」 「――――……だめ」 「優月に直で申し込もーっと」  教授がマイクを持って話し始めたので、そこで会話は終了。  ……優月、止めとこ。  そんな風に思いながら、ノートを開いた。    ◇ ◇ ◇ ◇ 「玲央、飯行こーぜ」  2限が終わると、すぐ稔が言った。 「ああ」 「勇紀達も一緒か?」 「約束はしてねーけど。いつもの学食行く」 「オッケイ。会いたいんだよねー」 「……優月の話で盛り上がんなよな」 「盛り上がるでしょ」  あはは、と笑いながら稔が言って、立ち上がった。 「あ。勇紀で思い出した」 「ん?」 「さっき言ってなかった」 「何を?」  オレも鞄を持って、立ち上がる。先に少し歩き出した稔が、オレを振り返る。 「優月と付き合うことになったから」 「え」 「昨日から」  そう言うと。  稔はしばらく無言で。 「……えーと。 それは、セフレではなく?」 「そんなのわざわざお前に言うかよ」 「……恋人ってこと?」 「そう」  そのまま稔がまたしばらく無言。  隣で並んで歩きながら、何となく返事を待ってると。 「お前、セフレは?」  と聞いてくる。 「必要ある奴とは、全部連絡して終わった」 「――――……え、本気でマジなの?」 「……マジだけど」 「え、だって、恋人なんかいらねえってずーーーーーーーっと言ってたじゃん」 「そんな伸ばすな」 「だって、ずーーーーーーーーーっっっっと、じゃん」  あーうるさい。 「……優月とはちゃんと付き合いたかったんだから、しょうがねえじゃん」 「うっわー、もう、早く食堂行こうぜ、早く! オレは勇紀達と話したい」 「騒ぐなよ、食堂で」 「どゆこと??」 「さっき伝えた時、勇紀、部室で超叫んでたから。食堂でお前とぎゃーぎゃー騒がれたくねーけど」 「あぁ、なるほど」  面白そうに笑う稔に、は、とため息を付いていた時。 「あ、玲央」  後ろから。  声で、間違いようもなく。 「優月」  振り返ると、嬉しそうに笑う優月が居て。  …………あー可愛い。  一瞬で思って、何だか暖かい。

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