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第292話◇
朝、一緒に来たんだから、初めて会う訳じゃない。
今日の服装は朝もう見てたし。
――――……なのに、「会えた」的な気持ちが強すぎて。
我ながら、ちょっと戸惑う。
優月の隣には村澤が居た。
「おす、神月」
村澤がオレに言って、じっと見つめられる。
「ああ。――――……聞いた、よな?」
どう見ても、オレを見てるのが完全に、意味ありげな視線だったので、それだけ聞くと。
「ああ、聞いた。まだ、そうなった、て事だけな」
くす、と村澤が笑って、優月に目を向けてる。
「すげえ浮かれてるんだもん。すぐ分かった」
そんな事をこっそり言った村澤の横で、優月はといえば、オレの隣に居た稔に視線を向けて、あ、こないだ会った人だ、みたいな顔をしてる。
そしてその直後。
稔が、優月に近付いて行って、肩に手を置いた。
「優月ー 聞いたぞー!!」
……なんでこいつは、優月を完全呼び捨てにして、そんなに激しく絡んでいくんだろう。
「あ、えっと……西野、くん……?」
西野くんだっけ? という顔で、オレと村澤を優月が見てくる。
なんか、ユサユサ揺らされながら。
「稔で良いって言っただろ~ 呼んでみろって」
「み……稔……?」
超困った顔をして、優月がオレを見てくる。
オレが何かを言うよりも早く、村澤が一歩進んで。
「つーか、オレが西野って呼んでんのに、何で喋った事ない優月が稔って呼ぶんだよ」
村澤が助け船を出してるが。
「お前も稔でいいぞ」
とか、言って、村澤に超苦笑いをされてる。
「とにかく、優月、オレは今から玲央にめっちゃ話聞いてくるからな! そしたらまた話そうな! ……あ、ていうか、一緒に飯行く?」
「あ、えっ……」
勢いに押されて、優月はぽかんとしながら。
「オレ、今日は智也と……あともう1人の子と約束してるから」
何とか断っているけれど、勢いに飲まれて、優月は焦ってる。
「つーか、お前、近いんだよ」
優月の腕を掴んで、オレの近くに引き寄せる。
「――――……」
優月がぱっと、オレを見上げてくる。
ふと見下ろすと、目が合って。
目が合った瞬間、優月はふふ、と微笑む。
――――……あーもう。
可愛い。
「優月、今日、やっぱ迎え行く?」
ついついもう一度、そう聞いてしまうと。
優月はまたオレを見上げて、ふ、と微笑んだ。
「大丈夫だってば。玲央は運動して待ってて?」
クスクス笑われる。
「仕事終わったらすぐ電話するからさ」
「……ん」
……ちぇ。
思いながら頷いてると。
「……だからさあ」
稔が超嫌そうにオレを見つめてくる。
「何な訳、マジで!」
「は? 何がだよ?」
急に切れ気味で言われて首を傾げると。
「迎えに来てって言われても、めんどくせえなっていうのが玲央だろ! でもって、そんな玲央がまた良いとか女子が言って、オレらが、はー?て突っ込むっつーのがお決まりだったじゃん!」
何言ってるんだ、お前は。
意味の分からない力説に、特にコメントする気も起きない。
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