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第302話◇

「少し接客してくる」  さっきオレが案内した女のお客さん達が、蒼くんを見てきゃあきゃあ言ってる事に気付いた蒼くんが、そう言って奥に歩いて行った。  頷いてそれを見送った里村さんが、ふ、とオレを振り返る。 「ほんとモテるよなぁ」 「そうですね」  ほんとに。 まあ、分かるけど。   「優月君は、土日も居たんだろ?」 「あ、はい」 「蒼はあんな感じ?」 「そうですね。蒼くんと話したい人いっぱいだから。ずっとあんな感じで相手して話してましたよ」  ふふ、と笑って頷くと、里村さんは、ふーんと笑いながら、受付に戻って来た。  昨日は華奢な沙也さんと一緒にここに立ってたからなのか、なんかものすごく、狭い気がしてしまう。背も高いし、がっちりしてるから、余計大きく見える気もすめけど……。 「里村さん、すっごく背、高いですね?」 「185だよ」 「なんか運動とか……?」 「バスケやってたよ。大学までだけど」 「わー、ぴったりですね」 「まあでもバスケやってる奴、デカい奴多いから。そん中だと普通だったけど」 「そうなんですね……普通……」  なるほどそうなんだ、と頷いてると。里村さんはオレを見て、くす、と笑った。 「優月くんは? 何かやってた?」 「オレ、ずーっと、美術部です」 「ああ。絵、描くんだもんな」 「はい」  里村さんを仰いで、くす、と笑ってしまった。 「里村さんて蒼くんと何のお友達なんですか?」 「カメラマン仲間だよ。今日はたまたま引っ張り込まれただけ。優月くんが替わった風邪引いた子いたろ。その子じゃない方も風邪引いたとかでちょうどどうすっかなって言ってるとこにオレが電話したみたいでさ。まああいつの個展興味もあったし、前から聞いてた『優月くん』にも会えるっていうし」 「え。オレに会いにも来てくれたんですか?」 「そう。興味あるだろー、あの蒼が高校生ん時からずっと可愛がってる子とかさ」  さっきも言ってたっけ……。 「蒼くんて、オレの事、可愛がってるとか言うんですか?」 「可愛がってる……とは言わねえけど」  ぷ、と里村さんが笑う。  だよねえ、言わなそうだもん。  苦笑い。じゃあなんでそんな風に言ってるんだろうと聞こうとした時。またお客さんが入ってきて、話は中断。  1人が入ってくると、誘われるようにお客さんが続く。  しばらく受付業務をこなす。 「ごゆっくりどうぞ」  並んでた最後のお客さんを中に送って、小さく息を吸う。 「そろそろ終わりだな」  里村さんの声に、頷く。  ほんとだ。もう時間。週末より、平日の夕方の方が混んでるかな。あっという間の時間だった。  玲央どうしてるかな。ご飯食べないで待っててくれてるんだよね。  ……早く行こっと。  それきり時間まではもう、お客さんは来なくて閉館時間になったので、終了の立て看板を出した。蒼くんが接客をしていた人たちが帰って行って、今日は終了。 「2人共ありがとな」 「おう。ていうか、うまい店つれてってくれんだろ?」  クスクス笑って里村さんが言う。 「優月くんも行くの?」 「優月は約束があるみたいだから。な?」  ふ、と笑って頷くと、「そーなんだ、残念」と、里村さん。 「そういや――――……恋人、昇格した?」  急な言葉に、びっくりして蒼くんを見上げて。  名前を言わないのは、里村さんが居るからかなと悟って。 「うん」  とだけ、頷いた。  そしたら、里村さんが、へえ?と笑う。 「恋人が出来たばっかりなの?」 「はい」  頷くと。へえ、いいな。一番楽しい時だよな、と言ってくるので、笑んで頷いておく。 「じゃあその話、また今度な」  蒼くんが言うので、うん、と頷いた。 「いいよ、優月。あとはやるから、早く帰ってやんな」  蒼くんがそう言うので、ん、と頷いて、下の荷物置きから、鞄と紙袋を手にとる。 「蒼、優月くんにはすげー優しいな」 「は? オレ、誰にでも優しいだろ?」 「そうかあ?」  目の前のそんな会話を聞きながら、スマホをさっと確認していると。 「え」  びっくりして、蒼くんを見つめてしまう。 「……どした?」 「ジム早く終わってやる事なかったから迎え行くって……近くのコーヒーショップに居るみたい」 「ふーん……」  クスクス笑う蒼くん。 「聞いて、玲央が良いならこっち戻ってきな。 まあでも、2人が良いなら、全然帰っていいから」 「……ん、分かった。聞いてから電話するね?」 「おう」  里村さんにも挨拶しながら、自動ドアから外に出て。  玲央に、電話をかけた。    ……結局、来てくれたんだ。  と思うと。  遠慮して、断っちゃったけど――――……。  ……やっぱり嬉しいな。    呼び出し音を聞きながら、ふ、と微笑んでしまう。

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