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第303話◇

「あ、玲央?」 『ああ、優月。終わった?』 「うん。来てくれたんだね」 『――――……要らないって言われてたけど……』  そんな風に話し出した玲央に。  そんな事言わせたいんじゃない、と思って。  ……素直に甘えるって。  その方が、玲央、嬉しいって――――……そうかもしれない。  とりあえず、嬉しいって、伝えよう。  そう思って。  玲央の、言葉を遮った。 「すごく、嬉しい」 『え?』 「……来てもらうとか悪いなって思ってたんだけど――――…… やっぱり、来てくれて、嬉しい」 『――――……すぐ行く。どこ?』 「あ、昨日のお昼食べたとこに向かってるんだけど……違うとこ?」 『あってる。そこの側のコーヒーショップ。すぐ出るから待ってて』  電話、繋がったまま。  会計してるっぽい雰囲気。  玲央の様子を、電話で聞いてるとか。  なんか楽しい……。  喋ってなくても好きなんだけど、どうしよう。  なんて、自分でもどうなんだろうというような事を思っていたら。  後ろから、「優月」と呼ばれた。  あ、玲央。  玲央の声が嬉しくて、振り返ろうと思ったけど、それより早く肩を抱かれて、なぜだか路地裏に数歩入る。表の明るい場所とは、数歩進んだだけで、全然違う。 「え、玲央どう――――……」 「キスさせて」  ぐい、と抱き込まれて、否応なく上向かされて。  唇が重なった。 「……ン……!」  びっくりして、玲央の顔を、じっと見つめてしまう。  伏せられた瞳が――――…… それだけで、超カッコイイんだけど。  何でそんな、一生懸命な感じで、キス、してくるの……。  ぞくん、と体の奥が震える。 「……んん、ン………っ ……ふっ……」 「――――……」 「……ん、は……ン……ッ」  玲央の顔見てる余裕なんか無くなって。  深いキスに、涙が浮かんで、熱くなる。  何……どしたの、玲央……。 「…………ふ、は……っ………ンんっ……」  あ――――……。  また、膝、抜けそう――――……ダメ、玲央……。 「んっ ……」  がく、と崩れそうになるけど、ほんとに毎回、見事に抱き止めて、くれて……。 「……っン……れ、お……?」 「――――……優月……」  激しく絡んでた舌は外れたけれど。  また重なって、吸われる。 「……んんん……ぅぅ、ん……っ」  何、すんの、もう――――…… 立てないってば……っ  むぎゅ、と抱き締められて。  はあ、と、息が零れた。  こんな僅かな間の、キスで、こんなに息が上がって、体温が上がって、  頭ん中、真っ白で――――……膝から力が抜ける、とか。 「玲央……のキス………やらしすぎ……っ」  涙が勝手に零れていくのに、それを見て、また、愛おしそうに目を細めて笑う玲央に、ちゅー、と目尻にキスされる。 「も……立て、ないし……っ」 「抱いててやるから」  ぎゅー、と腕の中に閉じ込められたまま、後頭部を撫でられまくる。 「…………どう、して、急に……」 「――――……お前が悪いと思うんだけど」 「…………オレ……??」  オレ、何か、したっけ……?  ぐす、と泣きながら、玲央を見上げると。  また反対側の瞼にキスされる。 「……っ……何で、オレ……??」 「可愛くて無理……」 「――――……何が……?」 「……迎え、嬉しいとか。――――……可愛い」 「――――……」  ぎゅーと抱き締められながら、顔の色んな所に、ちゅーちゅーキスされる。  来てくれて嬉しいって……言った、あれ……???  え。あれ、で。  オレは、こんなに、めちゃくちゃなキスを、されてしまったの……??  うそでしょ……??  ……玲央……。  ――――……嬉しいんだ、ほんとに……。  それはなんだかすごく分かったけど。  ……頼ると、こんなになっちゃうんだと…………こ、こまる……。  ぎゅー、と抱き締められて。  撫でられて。色々キスされて。 「くすぐったい、てば」  玲央から少し離れつつ。  でもなんだか――――……。  口元に浮かぶのはどうしても、幸せな笑みになっちゃうのは。  もう。  仕方ないよね……。  だってなんか。  ……可愛いんだもん。玲央。  

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