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第306話◇

 「CLOSE」と書かれた立て札を避けて進む優月について、中に入ると、蒼さんともう一人が振り返った。 「こんばんは」 「おう、玲央。昨日ぶり。つか、毎日会ってるな」  クスクス笑う蒼さんは、隣の人に視線を流しながら。 「こっちは、里村晃。仕事仲間だよ」  蒼さんが言うので視線を合わせると、やたらガタイの良いその人は、ふ、と笑んだ。 「玲央くん? 優月くんの彼氏だって?」 「はい。 昨日、そうなりました」  途中から蒼さんの事を見つめて言うと。  蒼さんは頷いて、目を細めて笑った。 「聞いたよ――でも全然詳しく聞いてないから話あるなら聞く。とにかく今閉めるから、店に行こうぜ」  蒼さんの言葉に頷きながら、ふと気づくと優月が隣でオレを見上げてにっこり笑ってる。  少しだけ離れた時に、優月を見下ろした。 「なあ優月」 「ん?」 「聞かれたら、何答えても平気?」 「うん。平気、だよ?」 「ん、分かった」  こそ、と話して、ふ、と見つめ合って笑む。 「ほら、行くぞー」 「はーい」  蒼さんに呼ばれ、里村さんにも振り返られて、優月がそう返している。  前を歩く二人の後をついて歩く。  そこから五分程歩いて、入ったのは、すごく雰囲気の良い和食の店だった。  個室に通され、テーブル席に座る。  優月とオレが並び、里村さんと蒼さんが並ぶ。 「コースで頼むよ。 晃はアルコール飲むだろ?」 「ビール」 「ん。優月と玲央は?」 「オレはお茶がいいんだけど……」 「ウーロン茶と緑茶があるよ」 「ウーロン茶がいいな」という優月に「オレもそれでお願いします」と続ける。蒼さんが注文を済ませてから、メニューを渡してきた。 「何か他に頼みたかったら別で頼んでいいよ」 「大丈夫です」 「オレも大丈夫」  ん、とメニューを受け取って、里村さんにも、見る?と聞いてる。いい、と里村さん。 「今日ありがとうな、二人とも」  蒼さんが優月と里村さんにそう言ってる。 「晃、受付なんか初なんじゃないか?」 「確かに、あんまやった事なかったかも。まあ、優月くんに会ってみたかったし」  その言葉に、優月が、ふ、と里村さんを見つめている。 「さっき優月くんには言ったけどさ、蒼がずっと可愛がってるっぽいからさ。どんな子なのかなーと思って」  友達が見たいなと思うほど、優月のことを話してるんだなぁ……と、心の中で思いながら、ちょっと不思議そうに首を傾げてる優月を見つめる。 「弟みたいなもんだって言ってんだろ」  蒼さんがそう言って、里村さんに笑ってる。  優月はふ、とオレの視線に気づいて、オレを見つめて。  また、にっこり笑う。  あー、触りたい。不思議そうにしてんのも、可愛い。  咄嗟に思う。……触れないけど。 「玲央もごめんな」 「え?」 「優月、借りてさ?」 「ああ……そんなのは全然」 「そうか?」  言いながら、蒼さんはくすっと笑う。そこに、飲み物が先に運ばれてきた。 「とりあえず乾杯しよ」  蒼さんの言葉に、皆でグラスを持つ。 「じゃあ――付き合い記念、な。乾杯」  皆、ふ、と笑いながら、乾杯。  お茶を一口飲んでから、蒼さんがオレをまっすぐ見つめた。 「――優月だけ、に、なったんだよな?」 「はい」 「ふうん……」  そう言って、ぷ、と笑う。 「何ですか?」 「いや……だってな。昨日、頑張ったんだろうなーと思うとちょっとおかしかった。……悪い」  クスクス笑われる。  ……なんかほんと。  色々見透かされてる気がするのは、ほんと何なんだろ。  知らねえよなあ? オレにどれくらいセフレが居たかも。  ……昨日結局、その連絡に半日かかってたとかも。  知らないだろうなと思うのに、何か悟られてるような気がするって。  ほんと、不思議な人だよな。

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