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第307話◇

「優月くんがさっき言ってた恋人が、彼氏だとは思わなかった」  里村さんがクスクス笑いながらそう言って、優月を見つめる。 「もともと男が対象なの?」 「違うんですけど……」 「違うんだ」  ふーん、と言いながら、オレにも視線を向けてくる。 「玲央くんは?」 「オレは……バイですね」 「へえ、そうなんだ」  里村さんは、特別驚きもしないで、ふ、と目を細めて笑った。 「なんか君、めちゃくちゃイケメンな子だね」  そんな風に面と向かって言いながら、ちら、と蒼さんを見る。 「蒼と張るかなー?」  そんな事を言って、蒼さんに苦笑いされてる。  あ、と優月が楽しそうに声を出して、話し始めた。 「玲央、去年の大学祭のイケメン投票でダントツ1位になってて。オレ遠くから見てたんですけど」  ……初耳。 「……見てたのか?」 「うん、見てたよ? あそこで初めて玲央を見たのかなあ。……言ってなかったかも」 「聞いてないよ」  あれ見られてたのか。……面白がって勇紀達がエントリーしたら通ってしまって、途中棄権無しと言われて、結局決勝まで出されて、結構恥ずかしい思い出なんだけど。 「あれ、勇紀達が勝手にエントリーしただけだから。オレが自分で出したんじゃないからな」 「え。別に自分で出してもいいのに?」 「それはなんか嫌だ」 「ふふ、何で?」 「何でも」  そう言うと、くす、と笑って、優月が蒼さん達に目を向ける。 「あの時は、玲央ととか……考えもしなかったから不思議だけど」  不思議、か。  ……まあ、不思議だけど。 「不思議だけど、今はそれで良いんだろ?」  蒼さんが、そう言う。  すると、優月が一瞬きょとん、として。  それから、めちゃくちゃ嬉しそうに、ふんわり笑った。 「うん」  オレは。  可愛くて、固まってただけだけど。  蒼さんと里村さんは、優月の笑顔を見て、一瞬ぷ、と笑って、顔を見合わせた。 「ここまで嬉しそうに笑われちゃうと、もう何も言えないだろ」  里村さんが蒼さんに言うと、蒼さんは、肩を竦めた。 「オレ元々何か言うつもりもないけど」  そこで、扉がノックされて、料理が運ばれてきた。 「わあ、すっごい美味しそうー」  優月は本当、いつもどおり。  里村さんとは初対面な筈だけど……ほんといつも通り。  オレと居る時にも見せる嬉しそうな顔で、料理を見ている。  いっつも変わんないのは、いっつもそのまんまだからなんだろうな。  そう思うと、このいつも通りっていうのが、すごく貴重な気がする。  一通り料理を並べて店員が出て行くと、蒼さんが食べていいよ、と笑う。  いただきます、と早速箸をとる優月。 「いっつもすごい嬉しそうに食べるだろ」  蒼さんがオレにそう言って、ちょっと苦笑いしてる。 「何でも食べさせたくならないか?」 「……なりますね」  ぷ、と笑って答えてしまうと。  蒼さんも可笑しそうに、口元を押さえながら。 「――――……やっぱ、玲央も、なるんだな」  そう言った。大きく同意で頷いてると、優月が、ぱくっと食べながら、オレ達を見つめる。 「……食べないの?」  モグモグしながらそんな風に言う優月に、本当にその頬に触れたたいんだけれど。 ――――……我慢だな。 「ん、食べるよ」  優月と視線を合わせると、つい可愛くて、くすっと笑ってしまう。 「……優月のこれを好きな奴がさ、優月と付き合うのは、すげえイイかも」  ふ、と蒼さんが笑ってオレを見る。  なんかそんなのを聞くと。  ――――……蒼さんがどんだけ優月を大事なのかが分かる気がする。  ……まあもともと、分かってはいるんだけど。

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