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第308話◇
「……今のどういう事??」
優月が不思議そうな顔。
すると、蒼さんが。
「お前が嬉しそうに食べるって話をしてるだけ。さ、食べようぜ。里村、飲み物は?」
そんな風に話を終わらせて、メニューを里村さんに渡してる。
2人がメニューを見ながら酒の話をしてるのを何となく見ていたら、隣の優月が、にっこり笑ってオレを見つめてきた。
「玲央、そこのお皿のお肉、美味しい」
「ん。これ?」
「うん。なんか、すっごくじんわり美味しい感じ」
幸せそうに笑う優月に微笑み返しながら、言われたものを口に入れる。
「ああ、うん、美味いな」
「うんうん」
さらに嬉しそうな優月。
蒼さんが酒を注文して、メニューを片付けている間に、里村さんが優月とオレを交互に見て。ふ、と笑った。
「優月くんはノーマルで、玲央くんがバイかぁ」
そんな言い方に、蒼さんが里村さんに視線を向けて、眉を少し顰めた。
「何、里村」
「質問してもいい?」
「……あんま余計な事言うなよ」
蒼さんがそう言う。すると、里村さんは苦笑いしながら頷いてる。
「なんか不思議でさ。優月くん」
「はい?」
「何で玲央くんが好きなの?」
「何で……」
「すっごいモテそうなイケメンで、バイって事は、どっちにもモテるって事だし。ライバルも多そうだし。これから先、きっと大変だよ?」
あー、なんか。余計な質問するなーと、顔に出さず思っていると。
優月はオレを見て。ふ、と微笑んでから、里村さんに視線を戻す。
「なんかオレ色んな人に、何回もその質問されてる気がするんですけど」
「ああ、そうなの?」
「はい。なんで好きなの?って……」
クスクス優月は笑う。
「玲央が色々カッコよくてモテるのは、もうすごく良く分かってるし……オレもともと、セフレでもいいからって、玲央のとこに行った位なので」
……優月って。「セフレ」って言葉だけは、なんか恥ずかしがらずに言うよなあ。「友達」とか言うのと同じ感覚で、結構普通に。
「セックスフレンド」って言うならきっと、言わないんじゃねえかな。意味、ちゃんと考えてない気がする……。
里村さんも、何て答えていいか、一瞬迷ったみたいで、黙ってるし。
……きっと、聞きたい事はいっぱい浮かんだんだろうけど。優月があまりにけろっとそんな事言ってるから、逆に何聞いていいか、分かんねえのかな。
ほぼ初対面の人に、普通にそんな事言ってる優月が面白くて、吹きだしてしまうと。
「え。何で笑うの?」
オレを見て、首を傾げてる。
「悪い、つい……」と思わず口を塞いでいると。蒼さんも、ぷ、と笑ってる。
すると、里村さんが聞きたい事をやっと見つけたのか、話を続けた。
「最初セフレでいいって思って、玲央くんと居たの?」
「……あ、はい。玲央が好きな時に会ってくれればいいって思ってた位なので……だから、玲央がモテるのはほんとに分かってて納得もしてます」
「……納得、ね。 玲央くんが、他の人とセフレだの言って、浮気しだしたらどうするの?」
しねーし。
心の中で思いながら、里村さんを見る。ついでに隣の蒼さんが目に入る。
蒼さんは、すごく面白そうに優月を見ていた。
「浮気……はやだけど……」
「しないよ」
ちら、とオレを見る優月に、すかさず言っておくけど。
「……オレを好きじゃなくなったなら、離れます」
「……いーの?」
「他の人の方が好きになったって事だと思うので。それはしょうがないし……」
「だから、しないって」
オレを見て、優月は、クスクス笑いながら、うんうん頷いてる。
「……玲央がオレだけって言ってくれてる時間は、大事にしたい、ので……モテちゃうのは、カッコよすぎだからしょうがないし……」
優月はそこまで、うーん、と考えながら言って。
「こんなに側に居たいって思った人、初めてなので」
めちゃくちゃ笑顔で里村さんに言った優月に、オレが、固まってると。
蒼さんがぷ、と笑った。
「優月、玲央が横で撃ち抜かれてるから、その辺にしとけ」
撃ち抜かれてるって……。
ほんと正確に言い当ててくるな……。
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