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第310話◇
「なあ、2人、大学何年?」
里村さんが急にそう言う。
「2年です」
そう答えたら、にや、と笑った。
「じゃあ今年成人だよな」
「はい」
「誕生日いつ?」
「オレは11月22日です」
「そうなんだ!」
里村さんより先に優月が反応した。
「誕生日知らなかった!」
「……言ってなかったかも」
「覚えとくね」
ウキウキ楽しそうにしてる。そこに里村さんの声。
「優月くんは?」
「……3月3日です」
「へえ。ひな祭り? ぴったりというのか、それは違うのか……迷うなー」
里村さんに、ははっと笑われて。蒼さんも可笑しそうに笑ってるし。
優月が超複雑そうな顔をしてる。
「じゃあ、3月3日以降。まだ、大分先だからちょうどいいや」
「何がですか?」
「そん時まで、2人が続いてて、今みたいに仲が良かったら、祝ってやるよ。奢ってやるから乾杯しよ。 いいだろ、蒼」
「――――……2人がいいなら良いよ」
くす、と笑う蒼さんに、オレと優月は顔を見合わせて。
すぐに、2人揃って、頷いた。
「めちゃくちゃ奢らせますね」
つい、そう言ったら、里村さんは一瞬固まって。それから。
「いいねー、面白い」
ニヤリと笑われた。
その後、食事を取りながら、色々話している内に結構な時間が過ぎていて。オレと優月は明日も学校なので、先に帰る事になった。里村さんに挨拶をした所で、蒼さんが立ち上がった。
「ちょっと外まで送ってくるから待ってて」
里村さんにそう言って、オレと優月の前を歩き始める。
お店の人に、送るだけなのでと断って、蒼さんが店を出た。
「うまかったろ? この店」
その言葉に頷いて「ごちそうさまでした」と言うと、隣で優月も同じように言って、にこにこ嬉しそうに、美味しかったと笑う。
「今日ありがとな、優月。助かった」
「ううん」
「玲央も。結局ここ迄来る事になったし。悪かったな」
「話せて良かったです」
ああ、と笑う蒼さん。
「じゃあ、またな」
「あ、オレ明日、教室に絵描きに行くね」
「あぁ。明日はここ最終日だから帰れないと思うけど……頑張れよ?」
「うん。じゃあ、またね」
2人で蒼さんに別れを告げて、蒼さんが店に入るのを見届けてから、駅に向かって並んで歩き始めた。
「……思いがけずさ」
「え?」
「すぐ報告できて、良かった」
「……ん」
ふふ、と優月が笑う。
「なんかさ」
「ん?」
「何て言うか…… オレ自身はさ、蒼くんに報告するべきだって、思うんだよね」
「ん」
「今までずっとお世話になってるし。オレが蒼くんに報告するのは、それは当たり前なんだけどね――――……」
優月がオレを振り仰いで、じっと見つめてから、ふわ、と微笑む。
「玲央は別に、蒼くんに報告しなくてもいいと思うんだよね」
そう言われて。
まあ確かに……と初めて思う。
「そう言われると、そうかもな……」
「そうだよね?」
クスクス笑って、優月はオレを見上げる。
確かに、オレが蒼さんに報告するって、必要はないかも、しれない。
でも。
――――……そこは、もう必須な気が…。
優月の両親とかの前に、まずクリアすべきな、もう必須事項だと思うんだけど。
「……なんか当たり前みたいにさ、蒼くんに報告したいから会いたい、とか言ってくれて――――……なんかオレ、すっごく嬉しいんだけど…… この気持ちって、分かる?」
そうなんだ。……嬉しいのか。
そう思うと、ふ、と笑ってしまう。
「――――……今初めて、嬉しいんだなって、分かった」
「……だって、嬉しいでしょ、これ」
ふわふわと幸せそうな顔で笑うのが、めちゃくちゃ可愛いなと思う。
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