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第311話◇

 隣の優月の笑顔に、そっか、そんなに嬉しい事なのか、とも思ったけれど。  ――――……でもなあ。  これって、ある意味当たり前、っていうか。 「蒼さんは――――……優月のこと大事にしてきた人だろ」 「――――……」 「……知り合ってからここまでだけでも、なんかすげえ分かるし。本気でお前と付き合いたいなら、絶対言わないといけない人だと思ったから。オレが言う必要がないとかは、全然思わなかった」  思うままにそう言ったら。  オレを見つめてた優月が、ふい、と視線を逸らした。 「――――……優月?」 「……だからさ。……なんか、泣いちゃうってば。オレ」  俯きながら、優月が言う。 「ただでさえ、玲央と会ってから、涙腺緩みっぱなしなんだから……」  そんな台詞に、ふ、と笑ってしまいながら。  ――――……愛しくて、たまんなくなる。  優月の手を取って、繫ぐ。 「――――……玲央?」 「……早く帰ろ」  そう言って、細い指を握ると。 「うん」  俯き加減ではあるけれど、ふ、と微笑んで、優月が頷いてオレに近付く。 「……泣かせるなよ、とかそんなセリフ、あるだろ?」 「ん?」 「付き合うって誰かに報告したりする場面でさ。泣かせるなよ、とか言うセリフ」 「ああ……うん、あるね」 「こないだ、蒼さんにも、言われたんだよね」 「……なんて?」 「泣かせたらこっちに引き取るからなって、言われたんだけど」 「そうなの?」 「そう」  少しびっくりした顔で、優月がオレを見る。  ……ちょっと涙は引っ込んでるかな。 「……玲央、何て返事したの?」  聞かれて、ふ、と笑ってしまう。 「優月は良く泣くから、それですぐ引き取られたら困るって言った」 「――――……」  きょとん、として。 「ごめん、ほんと。すぐ泣いて」  と、苦笑いの優月。 「好きでいて欲しいから、頑張る、とも言っといたよ」 「――――……そ、なんだ……ていうか、蒼くんとそんな話、してたんだ」  なんだか、ホコホコ嬉しそうな顔になる。  ……可愛い。ほんと。 「泣かせませんとは言えなかったんだけどさ。――――……悲しいとか、寂しいとかでは泣かせないって言えば良かったって今は思うんだよな。だから、次どこかで誰かに、言われたらそう言っとく」  そう言うと。優月は嬉しそうに笑って。 「なんか……ほんとにありがと、玲央」    本当に、そう思う。  悲しい思いで、絶対泣かせたくない。  今までの自分が自分だから、遠い先の事とか考えると、この気持ちが続くのかなと、少し不安に思ったりもするのだけれど。  ――――……泣かせたくない、笑わせてたい。  美味しそうに食べてる優月と、一緒に食べていたい。  色んな人に可愛がられてる所も、見ていたい。  優月が頑張ってるのを、一番近くで見てたいし、助けられるなら助けたい。  ただエロい事したいとか、相性がいいとか、そんなんじゃなくて。  一緒にちゃんと、生きていきたいって、すごく思うから。  そう思うと、遠い先の未来も、きっと大丈夫な気がしてくる。  

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