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第314話◇
「優月、何でキスしといて、そっち向くんだよ?」
「……うん」
笑いを含んだ声で、そう言われて、頷く。
……その通りだとは思うんだけど……。
だってさ……。
「……キスはね、したくなったんだけど」
「ん」
「――――……濡れてる玲央、カッコ良すぎて。恥ずかしすぎて」
「……何言ってんの、お前」
クスクス笑いながら玲央は、腕の中のオレをくる、と振り返らせた。
「まあ――――…… 濡れてる優月も、可愛いけど」
クスクス笑って、頬にキスしてくる。
「……っ」
至近距離。濡れた前髪の間から、大好きな瞳に見つめられると。
なんか、かあっと血がのぼる。
「――――……玲央って……存在が……」
「存在?」
「……そこに居るだけで、なんか、すごいよね……」
「んー? ……意味が分かんねえけど。好きってこと?」
くす、と笑まれると、もう駄目。
裸だし、濡れてるし、カッコいいし、細められる瞳が、優しすぎて。
「…………っ」
見つめ合ってる事に耐えられなくなって。
むぎゅ、と抱き付いて、玲央の視線から隠れる事にした。
「……うん、好き」
そう言うと、ふ、と笑った玲央に、ぎゅと抱き締められた。
男の人に抱き締められるという、この状況がまだ、現実っぽくはない。
オレの中には、これは、本来無かった、というか。
玲央と触れ合って急に、そういう事もありなんだと作られた概念だから。
服着てれば、まだ、そんなに意識はしないで抱き締められていられるし。
ベッドで色々しちゃってる時なら、なんかもういっぱいいっぱいだから、正直そんな事、気にしてる余裕もないし。
色々されて訳が分からなくなってる状態でもない、シラフのこんな時に。
綺麗に筋肉のついた裸の胸に、抱き締められるとか。
……まだ全然慣れないんだけど。
「……優月、上向いて」
「――――……」
その言葉に誘われるみたいに、すぐに上向くと。
ふ、と優しい瞳に見下ろされて。
すぐに、唇が、重なってくる。
「……ん」
まだ、全然、慣れないし。
玲央がカッコ良すぎて、恥ずかしいし。
でもやっぱり、どう考えても、好きすぎて。
触れるだけのキスを、何回か、重ねた玲央に、ぺろっと唇を舐められる。
「――――……っ」
「舌、出して」
「……っん」
ゆっくり出した舌に、かぷっと噛みつかれるみたいにキスされて。
ぞくっと、震える。
「……優月、今日疲れてる?」
「え?」
「……明日1限だよな?」
「うん」
「……早く寝たい?」
「――――……」
早く寝たいって何?? 一瞬そう思ったんだけど、あ、と理解。
こういうの、ちょっと分かるようになったかも。とウキウキしつつ。
「まだ寝たくないよ」
即答してみた。
そしたら、玲央が一瞬きょとんとして。
ぷ、と笑った。
「――――……とか言うと……しちゃうけど?」
せっかく即答したのに、玲央が苦笑いでオレの頬に触れてる。
「何で、しちゃう、なの??」
だめなの?
「……毎日、襲うとか。お前の体的に、ありなの? ほんとは疲れてるのも、寝た方がいいのも分かってるし」
玲央の言葉をじっと聞いていたけれど。
「オレあんまり体にダメージないよ。多分玲央が、優しくしてくれてるからだと思うんだけど……」
「――――……」
「……疲れてるとか眠いとかより……玲央と、したいんだけど……」
言ったら、玲央は、ちょっとびっくりした顔をした。
「したいの? 優月が?」
「……え、何で? したくないと思ってると思うの?」
「んー。ていうか。――――……キスしてれば幸せ、とか言いそうだから」
クスクス笑われて、そんな風に言われる。
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