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第320話◇

「優月、冷蔵庫から卵出して、そこのボールに割って?」 「うん」  言われて、冷蔵庫を開ける。 「いくつ?」 「3こ」 「ん」  3個出して、台に置く。こんこん、と叩いて、卵を割る。 「優月、片手で割れる?」 「出来るよー」  くす、と笑いながら、片手で割って見せる。 「上手」  ふ、と笑まれて、頭を撫でられて。  ――――……別に大した事してないのに、何だかすごく嬉しくて、くすぐったい。 「玲央も出来る?」 「ん」 「やって?」 「待って」  魚を焼くグリルに、鮭を入れて火をつけてから、玲央が隣に立った。  わくわく見てると、綺麗な手が、容易く割る。  ……今自分がやった事なんだけど。 「なんか玲央がやると、すごいカッコイイのは、何で?」  思ったままにそう言ってしまうと。殻を捨ててから、玲央がオレを見て、ぷ、と笑った。 「カッコよかった?」 「うん。手が大きいからかなあー。すごい簡単にやってるように見えるし」 「……まあ、オレも、優月が嬉しそうに割ってるの、可愛いと思ってたけど」  クスクス笑いながら、玲央が菜箸で卵を軽く解きほぐしている。  オレ達が、今何をしているかと言うと。  約束してた、朝食づくり。  今日は、ちゃんと、一緒に起こしてくれた。  ものすごくぐっすり寝てたら。  なんか、フワフワ気持ちよくて。ん、と声が出て、自分のその声に、ふと目が覚めた。  何だろ。動けない……息が……。  ふ、と声を出したら。そっとそれが離れて。  その瞬間に、玲央にキスされてたんだと知った。 「おはよ、優月」 「……うん。おはよ」  ……朝からこんなキスで起こされるのかー……ドキドキドキドキ。弾んでる心臓に、ただただ玲央を見上げてると。 「結構呼んだんだけど起きなかったから、実力行使」  クス、と笑って、軽くキスされた。 「だるかったら、優月はもう少しゆっくりしててもいいけど、どうする?」 「……一緒にご飯つくるから、起きる」  そう言ったら、優しく笑う玲央に、腕を引かれて起こされた。  一緒にシャワーを浴びて、髪乾かして服を着て、今、一緒にキッチン。 「ごめんね、いつも、起こしてもらって」 「――――……」  なんだかすごくそう思って言ったら、玲央は、ふ、とオレを見下ろして。  身をかがめると、ちゅ、とキスしてきた。 「オレと居ると、夜疲れるだろ。――――……謝んなくていいよ」  くす、と笑って、くしゃくしゃと頭を撫でてくる。  夜、疲れ――――……。  理解すると同時に、夜のことが一気によみがえってきそうになって、顔に熱が一気に集まる。 「あー…… ごめん」  謝りながらも玲央はぷっと吹きだして、クックッと笑いながら、オレを胸に押し付けてくる。後頭部をよしよしされるけど。玲央が笑ってるのが、揺れで伝わってくるし。 「……笑いすぎ」  むむ、とむくれてると、ナデナデしながら、玲央が離れた。 「ごめんって。――――…… あ、優月、出し巻き作る?」 「……玲央、上手でしょ?」 「ん」 「見たい」 「良いよ。ほんとはもっと卵いっぱい使った方がいいんだけど……まあいっか」  いくつか調味料と水を足して、玲央が焼き始めるのを、隣で観察。  ――――……カッコイイなあ。玲央。  ……いっぱい習った習い事のひとつとか言ってたけど。  ほんとなんでもできる人な気が。  焼き始めると、すごく良い匂いが漂いはじめる。 「あ。優月、鮭ひっくり返して」 「うん」  玲央の隣に行って、グリルを開けて鮭をひっくり返す。 「優月、みそ汁食べる?」 「うん。お豆腐昨日買ったよね。それでいい?」 「わかめ、そこに入ってる」 「豆腐とわかめなの?」 「あとネギ入れて。 嫌?」 「一番大好きー」  言って、ふふ、と笑うと。  玲央も、クスクス笑ってて。  なんか。結構今まで朝ごはんも作ってきたけど。  ――――……玲央とだと、幸せ過ぎて。  朝から楽しいなあ~なんてウキウキしながら。  玲央の隣で、水を入れた鍋を火にかけた。

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