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第321話◇

 出し巻き、鮭、みそ汁、ごはん。  それから、コーヒーを淹れた。  全部テーブルに並べて、玲央と向かい合って座る。 「いただきます」  2人で手を合わせて、食べ始める。 「――――……」    ――――……お味噌汁おいしー……。      無言でひたすら味わってると。     「なんかさ」 「ん?」 「作れるけど――――……ちゃんと作ったの、すげえ久しぶり。しかも、こんな和食とか」 「そうなの?」 「1人だから――――……作っても、パスタ、とか。……このマンションに入ってる店で買ってきたり」  玲央の言葉をうんうん聞きながら、ぱく、と出し巻きを口に運ぶ。 「おいしー……」  しみじみ言うと、玲央が、クスクス笑う。 「うまい?」 「焼き方も……最高。見てたけど、今度は教えて?」 「いーよ」 「ありがとう」  超美味しい。ほくほく幸せになりながら、オレは玲央を見つめる。 「こんなに美味しいのに作らないとか、もったいないー」 「そうか?」 「もう。お店を開いてほしい」 「はは。そんな美味い?」  言いながら玲央も、出し巻きを口に運んで。しばらく味わっていたけれど。 「……久しぶりに作っても、覚えてるもんだな」 「玲央はほんとなんでもできる人だねー」 「何でも、な訳じゃねえけど」  玲央は苦笑いで謙遜してるけど。  ……何でもじゃないかなあ。  死ぬほどカッコいいし。ものすごいモテるし。  歌も歌えて、楽器も弾けるし。  料理も出来て。家も綺麗だから、家事もちゃんと出来るみたいだし。  あ、なんか戦う系の習い事もしてたらしいし。  まあ……否定されそうだからこれ以上は言わないけど。  玲央って、漫画とかから出てきた、モテモテの主人公みたい。 「あ、優月。 今日、絵を描きに行くんだろ?」 「うん」 「オレ、車で迎えに行く?」 「え。車?」 「ここの駐車場とまってる。親父名義だけど」 「車……」  そんな、またまた迎えなんて悪いし――――……と、遠慮の言葉が出そうになったのだけれど。 「……良いの?」  そう聞いたら、玲央がふ、と瞳を緩めた。 「珍しい」 「え?」 「そんなの良いよ、オレ帰れるから、とか絶対言うと思った」  クスクス笑う玲央に、オレはちょっと苦笑い。 「言おうと思ったんだけど――――……」 「けど?」  一瞬、間を置いてから。 「……また変な事言うかも」 「ん? 変なこと?」 「うん……」  頷くと、玲央がふ、と笑う。 「いいよ、何?」  興味深そうに、面白そうに。   玲央がオレを覗き込んでくる。  ――――……うう。  どーしてこんなにカッコいいんだろう、この人は。  瞳の力が、半端ないんだよね……。  ……何か、瞳の中に入ってないかな。なんかこう、光る物みたいな。  …………だめだ、意味わかんない、オレ。  えーと。 「あ、あの――――…… 玲央がね」 「うん」 「運転してるとこ、見たいから。……来てほしい」 「――――……」  思ってるままにそう伝えたら。玲央は、ちょっと首を傾げた。 「迎えに来てほしいとかじゃなくて、オレが車運転するとこが見たいのか?」 「……うん」  絶対カッコいいに違いない……。 「――――……変なの、優月……」  そんな風に言って、玲央は、ぷ、と笑いながらも。 「いーよ。行くから、後で場所教えて」 「うん!」  やったー。  嬉しいな。  優しい笑顔を見つめつつ、他愛もない話をしながら、朝ごはんを食べ終えた。

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