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第329話◇

 2限終了。  やったー、早くご飯食べて、玲央とクロに会いに行こう。 「優月飯行く?」 「うん、行く」  立ち上がりながら答えて、皆と歩き出す。 「今日は幼馴染良いの?」 「うん、昨日食べたから」 「ほんと仲いいなー」 「そだね」  頷いていると前に歩いてた2人が振り返った。 「あの女の子、超美人だよな」 「ん??」 「幼馴染の子」 「あー、美咲?――――……うん、昔から、綺麗だったよ」  そんな風に答えると、皆がへー、と興味津々。 「1回も好きになった事とか無いの?」 「そうだよな、恋愛っぽくなんないの?」 「……んー。無いね、多分、お互い1回もないね」  そう言うと、皆がどっと笑う。 「ずっと姉弟って感じだったから。今もそんな感じする時あるし」 「そんなもん?」 「綺麗だなーとか思わないの?」 「そりゃ綺麗だなとは思うよ? 思うけど……恋愛じゃないなー。ていうか、そもそも絶対美咲のタイプじゃないし、オレ」  クスクス笑いながらそう言うと、なるほど、と皆がすごく納得する。 「そんな納得されるのもちょっと嫌なんだけど」  むむ、と言うと、皆また笑ってるし。  まあいいけどさ。  言いたい事は分かるし。 「そういえば優月の恋愛話って聞いたことねーな?」 「そーいやそーだね」 「んー。去年はそういうの何もなく過ごしてたからね」  ここに居る皆は大学からの友達。去年は好きな子とか居なかったから、まあ、話してる訳もない。 「ん? 去年は?」  鋭い1人に突っ込まれる。 「去年はって、何? 今年はあるのか、そういうこと」 「え、マジで?」  お、と盛り上がってきた時、ちょうど食堂について、皆がドアを入る所で1列になる。このままうやむやにならないかなーと期待してると、前に居る友達に、「居るの? 好きな子」と聞かれた。 「……ん」  頷くと、おーそうなんだ、と笑う。 「付き合ってる?」 「……うん」  また頷くと、おお、とすごく楽しそうな顔をして。 「なあなあ、優月今付き合ってるんだって!」  前を歩いてた皆を呼び止めて、おっきな声で叫ばれた。 「わあ、声がでっかいってばっ」 「いいじゃん、なんかめでたい」  時間が早かったからか、まだそこまで混んでない食堂で騒いでるから、めっちゃ目立ってる気がする。  「何々、ほんと?」 「学校の子?」 「学部は?」 「どんな子?」  めっちゃ聞かれてる。  ……ここで、玲央だって、言うべきだろうか……。  なんかさっきもこんなこと考えてたっけ……。  いや、多分ここでそんな事言ったら、もう、皆にここで叫ばれる……。 「いいから、ご飯買おうよ……」  そう言ったら、皆、オレを余計取り囲んでくる。 「言えよー、聞きたいじゃん」 「そうだよ、そういえば、皆の恋話知ってるけど、優月のだけ何も知らないし」 「だって、無かったんだもん」  困ってそう言うと。 「だから今はあるんだろー?」 「そうだよ、どんな子か位言えよー」  そう言われて。 「……すっごく、優しい」  玲央の事を思い出してしまって、ちょっとしみじみ言ってしまったら。  皆がはた、と固まって。 「何だそれー! もっと詳しく言えー」 「学校の子?」  ……頷いたら、絶対、吐かされるまで、離してくれない気がする。  でも、違うって嘘つくのもなんか、玲央を否定するみたいで、嫌だし……。 「が、学部違うから、知らないと思うから……さ。ご飯買おう」  言って、皆から離れようとするのだけれど、腕を掴まれて、戻される。と同時に、1人に肩を組まれてしまう。 「もー、優月ってばー、水くさいこというなよー」  ……この学校は、学部毎にクラスに別れる。  クラスで動くのは、英語とかそういう全員が確実に受ける授業くらいで、それ以外では、あんまりクラスとしての活動は無いのだけれど。  何だかやたら仲が良いオレのクラスは、お酒無しの飲み会とかをよく開いてる。付属校の出身でもないし、サークルとか入ってないオレでも、なんかすごく仲良しがたくさん居るのはそれのおかげ。それはとっても楽しい、のだけれど。  水くさいとか言われちゃうと、ちょっと困るんだけど。  今、この時点でものすごく楽しそうな皆に、相手が玲央だなんて情報を与えたら、大変な騒ぎにー……。 「名前は?」 「…………な、内緒……」 「はー?」  皆が叫ぶ。  ここは、学食に入ったすぐの所、メニューの前なので、少なからず邪魔だと思う……。 「ね、皆、ここ邪魔だから、動こうよ……」 「なあ、どんな子?」 「そーだよ、教えろよー」  うーん、オレがこんな話するの初めてだから。  ……聞きたいっていうのはすごく、分かるんだけど……。 「今度飲み屋とかでゆっくり……」  そう言ってみるのだけど。 「どんな見ため? 可愛い? 綺麗?」 「優月は、可愛い子かな?」  そんな事言われて、ふふ、と笑ってしまう。  めちゃくちゃカッコよくて、たまに可愛いなーって人だけど。  ……言ったら、盛り上がりがすごすぎると思うので、言えない。  と思った瞬間。 「優月?」  後ろから呼ばれる。  ――――……凛とした声。  聞き間違えるはずも、なく。  振り返ると同時に、オレに肩を組んでた友達が手を離した。 「玲央」  オレが玲央の名前を呼んで、笑顔になると。  ふ、と優しく瞳を緩めた玲央。  それを見た瞬間。  オレが付き合ってるのは、この人だよ、って皆に言ったら、どうなるのかなーと、すごく興味が……。  ……言える訳ないけど。

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