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第331話◇

「あ」  咄嗟に声のした方を振り返ると。甲斐と颯也の2人はオレを見て、固まる。 「……何泣いてんの?」 「ほんと良く泣くな、優月」  苦笑いで颯也と甲斐に言われて、手の甲で滲んだ涙を拭いた。 「もう返せ」  少し勇紀から離れたオレは、玲央に腕を引かれる。 「何で泣くかな……」  クスクス笑いながら、玲央の指が目尻に触れる。 「はいはい、入り口でいちゃつくなー」  甲斐が笑って、声を押さえながらオレ達に言う。 「席とった?」  颯也の言葉に、「まだ取ってない」と勇紀。 「鞄置いてくる」  颯也が言って歩き出した時。甲斐がオレを見て、ふ、と微笑んだ。   「あ。優月、聞いた。良かったな」  その言葉に、頷くと、くくっ、と笑って。 「玲央が何かしたら言えよ?」  とふざけた口調で言われて、ん、と笑うと。 「しねーから」  玲央が後ろですぐそう言って、甲斐が苦笑いしてる。 「近々祝う会するって勇紀が言ってるから、そん時な」  微笑む颯也に、うん、と頷くと。 「じゃー席取ってくる」  と、3人は行ってしまった。  玲央に引かれて、メニューの前から、少し離れた。 「食べ終わったら連絡入れろよ。早めに行こうぜ」 「うん」 「部室に絵の道具置いてるから、寄るけどいい?」 「うん。その後、コンビニ行っていい?」 「ん、クロのエサだろ? 行くと思ってた」  玲央を見上げて頷くと、ふ、と笑んで、ぽんぽん、と頭を撫でてくれる。 「――――……」  なんか。もう。このままくっついてしまいたいんだけど。  ――――……できる訳ないしな。  勇紀とは、別に抱き合っていられるのに。  ……玲央と出来ないのは……… それに、意味があるから、だよね。  何の意味もないと、抱き合えるけど。  大好きで抱き付くのは、やっぱり人前じゃ恥ずかしい。  仕方なく、玲央と離れようとした瞬間。 「……部室で、抱き締めさせて」  こそ、と囁かれてびっくり。  …………考えてた事、バレてたのかな。  かあっと熱くなる。  クスクス笑われて、またクシャクシャと髪を撫でられる。 「食べたらな」 「うん」  オレは玲央と別れて、そのままご飯を買いに行って、皆が座ってる所に戻った。 「おー優月、おかえり」 「うん」  座って、鞄を椅子に引っ掛けて、「いただきまーす」と食べ始める。 「優月がさっき話してた奴って、有名な奴だよな?」 「抱き付いてきた奴もだよな?」 「結構有名なバンドの奴らだろ?」 「あ、うん。そう……」  頷きながら、もぐもぐ食べ進める。 「最初に喋ってた派手な奴、名前何だっけ」 「ん。玲央だよ」 「ああ、神月玲央か」  すぐフルネームで出てくるとか。  ――――……ほんと、玲央、有名人だなあ。  ってまぁ。オレも知ってた人だし。  ――――……オレの耳に入ってくるって、よっぽどだからなあ……。  オレがいくつか知ってた玲央の噂は、もう学校の人は皆が知ってるんじゃないだろうか、と、思ってしまう。  他人の噂とかにまったく興味が無くて、聞こえても、ふーん位でスルーで、いつもなら記憶に残らないのに。あんまり何回か耳に入るから、覚えてしまったんだよな……。 「優月、仲いいの?」 「……うん。仲いいよ」 「何か接点あんの?」 「接点……まあ、勇紀……あの、抱き付いてきた人は、具合悪かったのを助けたのがきっかけで……」 「神月は?」 「――――……玲央は……たまたま会ったんだけど」  答えてる内に歯切れが悪くなってしまう。  これ以上突っ込まないで。とちょっと焦りながら、ご飯を食べ続ける。   「外見派手だけど、中身も派手なんだろ?」 「噂結構すごいけどどーなの?」  ……んーまあ、少し前なら……オレが聞いてた噂は大体合ってた気がするけど……。でも、玲央変わった、思うし……。 「オレ噂は全部は知らないけど……玲央のバンド、皆良い人達だよ」  言えないまでも、最低限の所は、言ってみた。  皆、ふーん、と頷いてる。 「バンド4人で固まってると、すごく見た目が派手なのは、そうだと思う」  4人を思い浮かべて、本当に相当派手な様に、ふふ、と笑ってしまうと。   「まあ優月と仲良しなんだもんなー、悪い奴とはお前つるまなそうだしな」  そんな風に言われて。  ふと、笑んで、「皆優しいよ」と伝えてみた。  ……多分玲央は噂なんか気にしない人だと思うけど。  オレがこうして皆と話してる内に、噂が少しずつでもなくなって、変な偏見が消えて。……とりあえずオレの周りだけでも、玲央の事を少しずつ、分かってくれたらいいなあ。  それから。  ……いつか、玲央が相手だって。  言えたら、いいな。 すぐじゃなくていいんだけど。  もっとずっとずっと玲央と一緒に居れて、もっともっと大事になってった頃、とかでもいいから。  大好きなのが玲央だって、言えたらいいな。

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