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第332話◇

 お昼を食べ終わって、ふと玲央の座った方を見たら、ちょうど玲央もこっちを見ていた。聞こえはしないけど、終わった?と聞かれた気がして頷いたら、玲央が立ちあがった。  オレも、「ごちそうさまでした!」と手を合わせた。 「あれ、早い今日」 「優月いっつも遅いのに」  そんな風に思ってたのかとちょっと複雑になりながら。 「え、オレ遅い?」 「まあいっつもおしゃべり優先だし」 「何か、ずっともぐもぐ食べてるイメージ」 「リスかよっつー、な?」  まわりの皆にもどっと笑われて、え、何だそれ、皆そう思ってたのかと、眉が寄ってしまった瞬間。 「優月、行けるか?」  玲央が背後に立った。 「あ、うん、ごめん。行く」 「急がなくていーよ」  すかさず優しく声がかかって、ほっとする。 ほんわか、する。 「ん」  立ち上がって、鞄を引っ掻けながら、椅子を戻してると。玲央が来てから何となく黙っていた皆が。 「どこ行くの? 優月」 「猫にエサあげに」 「ああ、いつものか」 「……一緒に行くの?」  玲央の事を言ってるのは分かったので。 「うん」  と答えると。皆、何だか不思議なのか、ふーん、とはっきりしない返事。  ……まあ、分かるけど。  オレがクロの所にいくのは、去年からで、皆も知ってる。  でも、玲央は……。  オレは、最初に玲央がクロを抱いてたから知り合ったし。玲央が猫、可愛いって思うの知ってるから不思議に思わなかったけど。  玲央が猫の世話に一緒に行くとか、多分、そんなイメージ全く浮かばないんだろうなあ……。と思ったら、何か皆の不思議顔が面白くなってしまった。 「猫、好きなの?」  何か物凄く興味津々だった皆の1人が、玲央に、直接そう聞いた。  玲央は、一瞬無表情でその友達を見て。  何て言うんだろう。  と、なぜかちょっとオレすらドキドキしてしまったんだけど。  ……きっと、周りの皆は、もっとドキドキしてるような……。  玲央は。それはそれは、綺麗に、ふ、と笑んで。 「あぁ。嫌いじゃないし――――…… 優月が、クロを好きだしな」  何だかすごくよく通る声で、そんな風に言った。  何か――――……。  オレも何も言えなかったし。  聞いた友達も、何も言えなくて。  まわりの皆も、無言。  多分、皆、なんか、色んな事を、一瞬で考えたんだと思う。  ……オレもだけど。  騒がしい学食の中で、ここらの席の周辺だけ、  ものすごい、しーん、として。 「ほら行くぞ、優月」  周り中が、えーと……という雰囲気で、固まりまくってる事に、気づいてるのか、気づいてないのか。  ……気づいていても、関係ないと思っているのか。 「あ、う、ん」  オレは、トレイを持って、固まってる皆を見回して。 「えっと――――……行くね、また、ね」  ああ、とか、おうとか。  やっと声を出せたみたいな感じで、皆が返事をしてくれて。  バイバイ、と言いながら、オレを振り返りながら歩き始めた玲央の後ろについて、歩き出す。  ――――……あの雰囲気の皆を残していって、一体あそこでこれから何が話されるのかなーと気になるけど……。  玲央の後ろ姿を見て歩きながら。  でもなんだかすごく嬉しくて――――……抱き付きたく、なってしまう。  ……オレが好きだから、猫も好き。  誰かが好きだから、何かが好き。  そんな風に、普通、言わない。  それって「何かを好き」よりも、「その誰かを好き」って、言ってるようなものだし。普通の場合、普通の人は、敢えてそんな風に言わない。  ……玲央が何を思って言ったのか、分かんないけど。  玲央がどんな意味にしたって、オレを好きって言ったのが、きっと、皆にも伝わったから、皆、あんなに固まったんだろうなあ……。  皆から離れて歩きながら少し落ち着くにつれて、考えれば考えるほど、嬉しいし。でも恥ずかしくもなってきて。  持ってるトレイを見つめながら、少し俯いて歩いた。

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