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第341話◇

【side*玲央】  優月と別れて、1限を部室で勇紀と過ごして。それから2限に出た。  今日はあそこのカレーが食べたい!というので、とりあえず甲斐達にも、今日は5号館の隣の食堂に居る、と連絡を入れた。必ず一緒という訳ではないけど、一応、いつもの学食から変える時は、伝えてる。 「なあなあ! オレマジで優月に会いたいんだけど!」 「今日は2限の友達と食べるって言ってたから、昼は無理。夜は絵描きだから無理。諦めろ」  そう言うと、えええー!とものすごく、嫌そう。 「なんだよもー……」  ぶつぶつ言ってた勇紀は、あ、とオレを見て。 「食堂のトイレって混むから、5号館のトイレ寄ってから行く。先いっといて」 「ああ。分かった」  勇紀と別れて、食堂に足を踏み入れた瞬間。  メニューの辺りで集まってる連中の所から。 「……づきは、可愛い子かな?」  なんて声が聞こえた。  ――――……優月っつった?   自然と視線がそっちに向く。   肩を組まれてる、あの、後ろ姿は……。 「優月?」  オレが視線を向けてた奴が、オレの声に反応して、ぱっと振り返る。  同時に、組まれていた肩が外れた。 「玲央」  めちゃくちゃ笑顔で――――……ほんと可愛い。  ふ、と笑って見つめ返すと。  にこ、と笑って、オレをじっと見つめてくる。   「玲央、今日はここで食べるの?」 「あぁ、勇紀がここが良いって」 「勇紀は?」 「今トイレ行った」  頷いて、優月がオレを見上げてくる。すごく嬉しそうに。  ……かわいい。  誰の目も無かったら。  抱き締めてキスしてンのに。  思った瞬間。  優月が今まで一緒にいた奴らが。 「なんか優月めっちゃ嬉しそう」 「ほんと」  そんな風に優月に言った。  ――――……嬉しそう。  まあ確かに。  ……優月の感情って、ほんと、周り中に筒抜けだよな。  多分、それに負けない位、オレも嬉しくて。  ……つか、オレの方が、よっぽど、抱き締めたかったり、キスしたかったり。中の感情は激しいと思うんだけど。  オレのは、なかなか漏れないんだよなー……。  なんて思いながら、クスクス笑われてる優月を何気なく見ると。 「――――……」  一瞬にして、真っ赤になってて。  さすがにちょっと、あまりに素直すぎて、驚く。  反応がバレバレすぎだけど――――……いいのか?  まあ別にオレは良いけど。  ほんと、素直……。可愛い。  そのオレの目の前で、案の定。優月は一気にからかわれ始めた。   「なになに、優月、ゆでだこすぎるけど」 「耳まで真っ赤じゃん」 「な、なんでも、な――――……」  この状態でなんでもないとか言っても、無駄だろうに。  どうしようかなと思ってるオレを見上げて視線が合うと、余計に真っ赤になっていく。  もうこのまま、トイレにでも付き合わせるか。  そう思った瞬間。 「ゆーづーきーーーーー!!!」  あ。うるせえの来た。  思った瞬間、勇紀が優月に抱き付いた。 「ぅ、わっ」 「優月、会いたかった――――!!」 「ゆ、ぅき……」  優月、ものすごいびっくりした顔してるけど。   ――――……でもきっとこれで、紛れるな。  勇紀が張り付いてて剥がれそうにないのを見て、優月の友達らは、先行ってると、離れて行った。  それを見送ってから。 「……まあいいタイミングだったけど。 そろそろ離れろ」  勇紀を引きはがして、抑える。 「お前ちょっと落ち着けよ」  苦笑いで言うと、「離せよ、玲央ー」と藻掻いてるが、「ダメだ」と一蹴。  優月が落ち着いたみたいで、ぷ、と可笑しそうに笑ってる。 「大丈夫か? もう、トイレにでもひっぱってこうかと思ったけど……。勇紀来て良かったな」  優月にそう言うと、優月は、あ、という顔をして。 「ごめん……」 「いいけど」  何でだか謝る優月に、クスクス笑ってしまう。  別に。嬉しそうと言われて真っ赤になるとか。  オレにとっては可愛いってだけだ。 「――――……もー離せよー、玲央ー!」  優月が可愛くて油断してたら、手を振りほどかれ、勇紀はまた、優月を抱き締めた。  オレは、ため息。けれど。勇紀がしみじみ。 「はー。玲央から聞いたよ。……よかったね、優月」  そんな風に言ってて。  優月も、ん……と、何だか、勇紀のその言葉に浸ってるっぽいので。  今度は引きはがさないでやる事にした。  その時。 「おーい……入口で、何してんのお前ら」 「優月の相手、勇紀だし。違うだろ相手が」  食堂に入った所で抱き合っている2人の姿に、呆れたように笑いながら、颯也と甲斐がやってきた。 「あ」  優月が2人を振り返ると、2人は何だかすごくびっくりした顔。ん?と不思議に思っていると。 「……何泣いてんの?」 「ほんと良く泣くな、優月」  苦笑いで颯也と甲斐が言う。  ――――……泣いてたのか、勇紀に、良かったね、と言われて?  浸ってるなとは、思ったけど。 「もう返せ」  優月の腕を引いて、自分の近くに引き寄せて、顔見ると。  ほんとに涙、ウルウル潤ませてて。 「何で泣くかな……」  なめたい。  涙。  そのまま、めちゃくちゃキスしたい。  出来ないので、仕方なく、涙を指で拭った。

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